Page 26 - NY JAPION
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テーマ ◆ 診断と同時に始める緩和医療(後編) 患者に適切な情報提供たのは、それらに加え、緩和 医療群で生存期間が約3 カ月延長されたことです。  本来は専門科にかかわ らず、全ての科の医師が基 本的な症状コントロールや 予後・治療目標の説明など を行い、難しい症状コント ロールやコミュニケーショ治療の意思決定を支援  その後も、複数の研究で生存期間の延長が報告されています。緩和医療というと、「(治療を)何もせず、 ンが必要になった場合のみ緩和医療を取り入れ 仕事の一つは、患者とその 寛解を繰り返しながら病そのまま死を迎える準備 をする」という誤解があり ますが、QOLを改善する ことが、予後そのものも改 善する可能性が示唆され ています。を緩和医療科医師が担当 するのが理想的です。残念 ながら、医師の中にもこの 部分を誤解しているケース が多々あります。る利点や、取り入れた 家族に、与えられた状況下 状が進行するため、患者は 場合の成果は? でそれぞれの治療選択肢 どんなに悪くなっても「ま 根治のための治療と が現実的に達成できるこ た良くなる」という錯覚に 同時に、痛み、呼吸 と、できないことを説明し、 陥りやすくなります(図参闘病開始にあたり大 事なことは? 重篤な疾患と診断 されたら、自分で意苦、治療の副作用などの身 患者の人生観や価値観と 体的症状に加え、将来に対 照らし合わせ、何が最善の する不安、人間関係の変化 治療かを一緒に模索するこ など、疾患によって引き起 とです。 こされる闘病中の苦痛を軽   どのような治療をいつま 減できることがまず挙げ で続け、最期をどこで迎え られます。 るか、集中治療室での延命照)。  いずれの場合も、病気の緩和医療はどこで受 けられますか? アメリカの場合、3 00床以上の病院の  例えばがん患者は、痛み 治療に意味があるかなどや、吐き気・倦怠感などの を最終的に決めるのは患抗がん剤の副作用のせい 者ですが、この決断は簡単で、根治的治療の継続が難 ではありません。緩和医療しくなることがあります。 科医師は、患者や家族の心緩和医療を取り入れるこ 情に配慮した繊細なコミュとで、痛みや副作用が薬で ニケーションを通し、このプうまくコントロールされ、 ロセスをお手伝いします。 った患者群に分けて経過を生活の質(Q OL)をでき るだけ落とすことなく根 治的治療を続けることが できます。  がんの場合、体力は比較的保たれたまま推移し、一度悪くなると予後が比較的短い(従って先がある程度予測しやすい)という傾向があります。それに対し、 う結果が2010年に報 心不全では増悪(悪化)と 告されました。画期的だっ  ※来週は、ユン・シーン先生 にアレルギー疾患について 伺います。  次に、患者が納得して治 療を受けられることです。 緩和医療科医師の重要な全身状態 全身状態早期から「病状が進行したときには何が重要で、何を避けたいか」という人生観、 9割で緩和医療チームが思決定できなくなったと き、それを誰に委ねるかを まず考える必要がありま す。そして、患者、その人 物、医師の三者間で人生観価値観を家族と共有する ことが大切です。存在します。つまり、大抵の病院で緩和医療を受けられるということです。疾患の痛みがとれないときや、 や価値観を会話し、共有す 副作用がつらいときなど、 ることが大切です。 主治医や看護師を通じ、緩   繰り返しになりますが、緩和医療による延命 効果は? 転移性肺がん患者 約150人を、従来の根治的治療に緩和医療 を組み合わせて行った患者 群と、従来の治療のみを行和医療を積極的にリクエス治療の選択に必要な情報 を提供し、闘病の苦痛を取 り除くのが緩和医療です。 予後や年齢にかかわらず、 全ての患者と家族に緩和 医療的アプローチが必要で す。調べたところ、前者が後者 に比べてうつになる患者が 少なく、Q OLが高く、死 の間際で抗がん剤治療を する患者が少なかったといの数が重篤な疾患患者1 200人あたりに1人と、 絶対的に不足していること です。緩和医療は非常に範 囲が広いので、特別の訓練 を受けた緩和医療科医師 だけでは到底全てをカバー できません。トしてください。  問題は、緩和医療科医師一般的ながん患者(上)と 良好 心不全患者(下)の病状の推移入院の 可能性不良 間から数カ月で死に至る 死亡AQAQAQAQ良好不良悪化と回復を繰り 返し、徐々に悪化する死亡時間の 2~5年後。死は 経過 「突然」と感じられる全身状態は後期までは比 較的良好だが、一度悪く な る と 経 過 が 早 く 、数 週発症・診断 時間の経過病院通い が始まる疾病によって経過は異なるため、それを理解して 治 療 方 針 を 決 め る こ と が 大 事( 出 典 : L y n n J , Adamson DM. Living Well at the End of Life. Adapting Health Care to Serious Chronic Illness in Old Age. Rand;2003から 許可を得て改変引用したものを、翻訳・追記)中川俊一先生Shunichi Nakagawa, MD ――――――――――――――――― 米国内科・老年科・緩和医療科専門医 師(Board Certified)。北海道大学医学部 卒業後、同大学病院の耳鼻咽喉科と第 一外科で研修後に来米。2005~2010 年クリーブランド・クリニックで肝臓移植 と一般内科研修、2010~2013年マウン トサイナイ・アイカーン医科大学で老年 内科・緩和医療フェローシップ研修を修 了。2013年からコロンビア大学医療セ ンター・緩和医療科助教。INFORMATIONAdult Palliative Care Services601 W. 168th St., Suite 37(bet. Broadway & Ft. Washington Ave.) TEL: 212-342-4475 http://columbiamedicine.org/divisions/ pc/pc.shtmlColumbia University Medical CenterFriday, May 26, 2017|Vol. 917|26 HEALTH


































































































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