Page 16 - NY Japion
P. 16
現在上映中のオフブロードウェー・ショー、「Trip of Love」の1場面。60【今週の用語解説】ベルギー同時テロ 3月22日にベルギーの首都・ブリ ュッセルのブリュッセル国際空港 および、地下鉄マールベーク駅に おいて発生した連続爆破テロ事 件。2回の爆発が起きた空港では 14人、地下鉄駅で20人が死亡し た他、2カ所で日本人男性2人を 含む200人以上が負傷した。事 件 後 、過 激 派 組 織「 イ ス ラ ム 国(IS)」が犯行声明を出した。実行 犯は空港で自爆したイブラヒム・バ クラウィ容疑者、地下鉄で自爆し た弟のカリド・バクラウィ容疑者を 含む4人とみられている。欧州では 昨年11月13日、パリで130人が 死亡、300人以上が負傷する同 時多発テロが発生した。© Matthew Murphy6015243110 1060津山恵子ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク 発で、米社会、経済について執筆。フェイス ブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに 単独インタビュー。著書に「モバイルシフト」(アスキーメディアワークス)など。2014年よ り長崎市平和特派員。元共同通信社記者。24津山恵子の に刺さるニュース解説米国で起きているさまざまなニュースは、市民 の生活にも深く関わっている。ニュースの背 景や深層、そしてわれわれの生活への影響 を、気鋭のジャーナリストが解説する。Friday, April 1, 2016|Vol. 858|16 BUSINESS78ハート第 回 ベルギーのテロとブロードウェーショーテロの被害が、アメリカ人 チャー、懐かしいファッショ だけでなく世界中の人間に ン、永遠のヒット曲にあふ 及ぶことになろう」(幻冬 れている。ところが、第2部 「日米が戦った太平洋戦 争中のことで、見るのが少 し怖かったが、でも、伝えて いかなくてはいけないこと がある」テロの時代を考える ヒントは舞台にあった舎、「非戦」より) 彼の懸念は、911からになるとベトナム戦争が影 を落とす。明るく踊ってい たダンサーらが、戦場に向 かう。それまで、音楽に合 わせて体を動かしていたご 機嫌の観客が、シーンとな った。 アレジアンスの公演期間 中、共和党の大統領選挙候 補ドナルド・トランプ氏が、 当時の日本人の強制収容 所を支持する姿勢を示し たことに対して、ジョージ・ タケイ氏がユーチューブの ビデオで反論するという一 幕もあった。トランプ氏が、 ベルギーのブリュッセル で、再び「同時テロ」が起き た。少なくとも 人が死 亡、280人以上が負傷し た。病院を見舞ったベルギ ー軍関係者は、「まるで戦 争に行ったかのような、恐 ろしい光景だ」と負傷者の 様子を語った。テロから3 日たった3月 日現在、死 傷者の氏名や国籍さえ未 発表だ。 米国は、犯行声明を出し そしてブリュッセルへと。数 た「 イ ス ラ ム 国( I S I 字 で 見 て み よ う 。9 1 1 の S)」を弱体化させるため、 後、米国が仕掛けたイラク 連日、シリアの爆撃を続け 戦争で、米軍兵士約450 ている。そのニュースに接す 0人が死亡している。これ る時、次の一節が思い浮か に対し、イラク兵士と市民 ぶ。音楽家、坂本龍一氏が、 の犠牲者は、調査によって 911の米国同時テロの直 異なるが、少なくみても 後に書いた文だ。 万人と推定される。この 「トリップ・オブ・ラブ」 は、 年代の「結晶」のよう な作品だ。同時に、戦争と 平和について考えさせられ た「反戦」の作でもある。世 界中にいるハッピーで無垢「現実はタフだ。その場にい ないと、分からない」とコメ ントしたため、タケイ氏が 「ぼくは思う。暴力は暴 万人の無念は、どう記憶さ 力の連鎖しか生まない。報 れ、どんな影響を及ぼして 復をすればさらに凶暴な いくのだろう。シリアもし(むく)な若者が、時代の波 に巻き込まれていく様子を 描写して、今、私たちが置 かれた状況を重ねて考え させる。「現実を見たいなら、アレジ アンスに招待します」と応 じた。タケイ氏の最後の言 葉は、こうだ。年を経て、残念なことに 的中した。米国からパリ、かりだ。 「もし招待に応じないな ら、あなたは臆病者だ」 戦争が起き、普通の市民年代がテーマの 日本人監督のショー強制収容所を描く タケイ氏の伝えとはが受けてきたダメージが、 「テロの時代」では無差別に 襲いかかる。だからこそ、戦 争の現実を振り返るミュー ジカルが、私たちに伝える る ものは大きい。暴力は暴力 の連鎖しか生まない。それ に傷つけられるのは私たち そんな中、日本人プロデュ ー サ ー 、出 口 最 一( ま こ と ) 今 年 に 入 っ て か ら は 、ブ氏が手掛けたオフブロード ウェー・ショー「トリップ・オ ブ・ラブ」を見た。主人公キ ャロラインが、「ラブ&ピー ス」の1960年代にタイ ムトリップする物語。 年 代にヒットしたアップテン ポでハッピーな曲を楽し み、時代をほうふつとさせ る衣装を着けたダンサー を見ているうちに、同年代 を少しずつ回想させられる という構成だ。ロードウェーショーの「アレ ジアンス」も観劇した。「ス タートレック」以来、息の長 い活動をしている日系人俳自身だ。 第1部は、ヒッピーカル優ジョージ・タケイ氏( ) が、主演・プロデュースした 作品だ。太平洋戦争開戦 で、日系人だというだけで 強制収容所に送られたオ オムラ一家とその他の家族 の現実を描く。財産の剥 奪、薬を与えられず死亡す る赤子、恋愛を引き裂く人 種問題などの出来事が、音 楽とダンスでつづられてい く、ブロードウェーにしては 珍しいミュージカルだ。 一緒に観劇した米国人の 友人に感想を求めると、こ う答えた。

