プロスポーツから見る経営学

第46回 FIFAエージェントの仕事

国際親善試合の調整
やりがいと難しさ

2月は弊社にとって毎年忙しい月です。サッカーの世界ではプレシーズンの期間であり、シーズン開幕に向けて厳しいトレーニングに励むキャンプの時期であります。また同時に、その時期に親善試合を行います。

親善試合は、リーグ戦のようにJリーグが組み合わせなどを決めて行う試合ではありません。基本的には、クラブ同士が調整して試合を行います。親善試合の主な理由は、クラブの仕上がり具合を確認するためです。同時に、普段のリーグ戦では戦うことができない相手と試合をすることで、新しい発見があったり、ファンを楽しませる意味合いもあります。

2月9日に開催された、「さいたまシティカップ」の試合の様子

国際親善試合を組む
手続き方法とは?

それでは、普段対戦をしないような対戦相手とは、どのようなクラブのことでしょうか?

簡単な例で言うと、海外のクラブです。普段Jリーグに所属しているクラブは、リーグ戦では日本国内のクラブと対戦をします。ですので、このプレシーズン期間中は、海外のクラブを招聘(へい)して親善試合を行うことができる、貴重な機会となります。

日本国内のクラブ同士であれば知り合いであることも多いので、試合の調整方法を話し合えばいいのですが、海外クラブとの試合に関しては、自分たちで連絡が取れない場合、「FIFAマッチエージェント」に依頼をすることが多いです。

私は、このFIFAマッチエージェントのライセンスを保有しているので、国際試合を組むことが可能となっています。FIFAが世界にこの資格を付与している人数は約200人で、日本人では私を含め、2人しかいません。

私たちFIFAマッチエージェントは、依頼主であるクラブから「予算」「日時」「対戦したい相手の希望」などをヒアリングし、世界中にそれに該当するクラブを探しに行きます。そして、この三つの条件に収まるように、依頼主のエージェントとして交渉を行い、海外クラブがきちんと来日して試合を行い、帰るところまでを見届けます。

奔走するエージェント
開催当日までの苦労

今回はさいたま市が毎年開催をする、「さいたまシティカップ」に出場可能な海外クラブを探してくることが仕事でした。依頼主である「さいたま市」と、出場する「大宮アルディージャ」と打ち合わせを重ね、前出の三つの条件を定めました。自分自身がメジャーリーグサッカー(MLS)国際部、そしてFCバルセロナ国際部に勤めていた時から国際マッチメーキングが本業で、私のここまでのキャリア約15年間で、およそ160試合ほどの国際試合を組んできました。そのため、市場価格や誰と話をすればいいのかなどを把握しています。

しかし今回は、大会開催3カ月前に受領したオーダーだったので、クラブサイドにすでに予定が入っていたりと交渉は難航しました。そんな中、マドリッドで開催された国際サッカーフォーラムに参加した際、打ち合わせをしたウルグアイリーグ王者の「クラブ・ナシオナル・デ・フットボル(C.N.DeF)」と交渉して、何とか契約締結にこぎ着けることができました。

そこからは宿泊・飛行機の手配、日本でのイベント出演の調整などを弊社の日米のスタッフで行い、無事、2月9日にさいたまのNACK5スタジアム大宮にて、「大宮アルディージャ」と「C.N.DeFの国際親善試合を取り行うことができたのです。

当日、試合中はいつもスタジアムの中を歩くようにしているのですが、そこで初めて南米の強豪クラブを観る子供たちや、応援をしているファンたちの姿を観ていると、本当にこの仕事はやりがいがあるものだなと思います。

来年2月は、ハワイで弊社が主催する「パシフィック・リム・カップ」です。4クラブをあちこちから集めて来ないといけないのですが、気を引き締めてまた頑張りたいと思います!

 

 

<今週の用語解説>

さいたまシティカップ

さいたま市とホームタウンとする「浦和レッズ」と「大宮アルディージャ」などが主催となり、2003年から今回で11回目を迎えるスポーツ振興事業。海外の強豪クラブと国際親善試合などを実施し、一流プレーを多くの市民が間近で見れる機会となっている。「サッカーのまち さいたま」というスローガンを、国内外に発信することを目的としており、2017年以来、3年ぶりに今年開催された。今までに、スペインの「FCバルセロナ」や英国の「マンチェスター・ユナイテッド」などを招聘(へい)。さいたま市民は、抽選で無料招待枠も用意している。

 

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。
08年アジア市場総責任者就任、パンパシフィック選手権設立。
09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。
ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。
FIFAマッチエージェント。
リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

 

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