心と体のメンテナンス

甲状腺疾患と妊娠 低下症と亢進症の治療法(後編)

Q. 甲状腺機能亢進症はどのように治療しますか?

A.

甲状腺機能亢進症(以下、亢進症)とは、甲状腺機能が異常に高く、甲状腺ホルモンの分泌が多過ぎる状態です。亢進症の中でもよく知られる「バセドー病」は、橋本病と同じ自己免疫疾患です。分泌量が多いのが問題なので、治療によって分泌量を減らします。

治療選択肢は、①甲状腺の活性を抑える抗甲状腺薬の服用、②甲状腺細胞の組織を破壊し機能を低下させる放射線ヨウ素の服用、③甲状腺の切除手術の主に三つです。最初から手術を希望する人は少ないですが、妊娠希望で年齢的に治療に時間をかけたくない場合、早めに手術を検討することもあります。

例えば、不妊治療を始めるため、できるだけ早い根治を希望する30代半ばのバセドー病患者がいたとします。三つの治療選択肢のうち、不妊治療を最短で始められる方法は甲状腺摘出手術です。手術は半日で終わり、その後はホルモン剤を服用し、順調にいけば4~8週間後に不妊治療を開始できます。

対照的に、抗甲状腺薬は体への負担は小さいかもしれませんが、最低1年間の服用が必要で、場合によっては2~3年服用しても根治を望めない可能性もあります。放射線ヨウ素の場合、治療して3~6カ月後にはホルモンレベルは正常になりますが、放射線の影響が抜けるまで、治療終了から6カ月は妊娠するのを待つことが推奨されています。

妊娠前に治療しておくのが理想ですが、妊娠後に亢進症が分かるか、亢進症を薬で治療中に妊娠した場合、母体の状態を見ながら、できるだけ薬の量を減らす方向で治療方針を考えます。母体の甲状腺機能を抑える薬は、胎児の甲状腺機能も抑えてしまう心配があるからです。

甲状腺疾患は、母体の甲状腺を刺激する抗体の異常が胎児に悪さをすることもあります。原因や症状(表参照)、妊娠の希望、年齢などを考慮し、治療の長所と短所を理解した上で、最適な治療法を主治医と検討し、納得して治療に取り組んでいただきたいと思います。

※次回は歯科医のトリスタン・ルー先生に、クリニックの安全対策と治療の迅速化について伺います。

柳澤貴裕先生
(Robert T. Yanagisawa, MD)

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内分泌内科専門医師 (Board Certified)
糖尿病や甲状腺疾患が専門。
マウントサイナイ・アイカーン医科大学教授、東京女子医科大学招待教授、東北大学臨床教授、米国日本人医師会 (JMSA)会長など。
今年3月以降は専門分野の診療に加え、新型コロナウイルス感染症治療にあたる。
日米で一般と有識者向けウエビナーで講演多数、情報共有に尽力。

Mount Sinai Hospital Endocrine Associates
5 E. 98th St., 3rd Fl.
(bet. Madison & 5th Aves.)
TEL: 212-241-3422
mountsinai.org

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