みみ先生の日本語子育て

その19 歌を覚えて 語彙を増やそう

現地邦人の子どもたちに向けて日本語教育を行っている皆本みみさん。「みみ先生」からニューヨークでの日本語教育について大切なことを伝えていく連載。


言葉の学習で重要なのは、より多くの名詞を初めに覚えることです。次に形容詞、そして、的確な表現を覚えていきます。

知っている語彙(ごい)は、たくさんあればあるほど役立つと思います。意思表示をする時でも、第二、第三外国語を学ぶ時でも、一つの語彙を知っているのと、知らないのとでは大きな違いが出てきます。

語彙を増やすのに良い方法。それは、歌をたくさん覚えることです。英語の授業で歌を歌うことがあるのも、単語や言い回し、文法を覚えるのにとても役立つからです。

私の姉は孫たちにたくさんの童謡を教えています。教えるというよりも、孫の方から「歌を欲しがる」といった感じです。もう知っている歌を歌うと、知らない歌を歌ってくれと要求するくらい、本当に歌が好きな様子です。

一方、私もまた、娘たちには赤ちゃんの頃からたくさんの歌を歌ってきました。娘たちが、小学校3、4年生の時、一体どのくらい日本の童謡を知っているのか調べたことがありましたが、歌詞を見なくても歌える歌が100曲を超えていたのには驚きました。

ただし、3番、4番まである歌は、私自身が歌って聞かせる時に正確に最後まで覚えているものは少なかったので、そこは正しい歌詞を用意してから歌うようにしていました。間違っている歌詞を教えることだけはしたくなかったからです。また、春には、春の歌を歌いました。季節感は大事だと思います。

ジャンルは、童謡を中心に、フォークやポップスなど子どもに覚えてほしい歌を選んでいました。物悲しくなるような子守歌はあまり歌いませんでしたが、それほど限定しなくてもいいと思います。娘たちは、私が卒業した八丈島の高校の校歌を歌えます。私が知っている歌を歌い尽くしてしまったからです。ちなみに私の母の時代の歌も知っています。時にはカラオケも味方になりました。

日本で暮らしていた時、娘たちはカラオケを初体験したのですが、漢字や普段使わない言葉を知るのに、カラオケは大いに役立ちました。(ただし、楽曲は選ばなくてはなりませんが)。しかも人前で歌いますので、度胸もついて一挙両得です。

ところで、私が幼い時は、どのようにして童謡を覚えていったのか、この機会に記憶をたどってみました。が、やはり思い出せずに姉に聞いてみると、八丈島では、当時ラジオから童謡が流れており、それを姉がいつも聞いていて、そばにいた私もいつのまにか覚えてしまったのではないかということでした。

なるほど、そういえばうっすらとラジオが見えてきました。当時の情景も思い出せないというのに、歌はちゃんと頭の中に残ったのですね。

また、語彙を増やす方法で私が実践したことは、毎日の生活での会話です。家庭にいる時は、鍋、フライパン、茶わん、おわん、箸、何でも見せて言い、また言わせました。夕食時には「箸を一膳用意してね」。散歩の途中では、鳥の名前や花の名前を、「ここは歩く道だから歩道」、「ここは自動車が通る道だから車道」、「この道路に赤い車は何台停車している? 停まっている車という意味だよ」という具合に話し掛けました。

日本語は、簡単な言語ではありません。そばにいるお母さんには、ぜひ毎日の生活で子どもたちと日本語で会話をし、意識的に語彙を増やしてほしいと思います。

※このページは、幻冬舎ルネッサンスが刊行している『ニューヨーク発 ちゃんと日本語』の内容を一部改変して掲載しております。

 

 

皆本みみ

1952年、東京都八丈島生まれ。
79年に来米。
JETRO(日本貿易振興会)、日本語補習校勤務を経て公文式の指導者となり、シングルマザーとして2人の娘をニューヨークで育てる。
2007年『ニューヨーク発ちゃんと日本語』(幻冬舎ルネッサンス)を上梓。
現在もニューヨークで日本語の指導者として活動中。

 

 

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