みみ先生の日本語子育て

その13 日本語の基礎づくり

現地邦人の子どもたちに向けて日本語教育を行っている皆本みみさん。「みみ先生」からニューヨークでの日本語教育について大切なことを伝えていく連載。


幼い頃の娘たちは、日本語を学ぶ時に時々泣いていました。ところが、泣きながら学んだわりには、娘たちにはその記憶がないようです。先日、長女がこんなことを言っていました。

「泣きながら勉強したのは覚えていないけれど、気が付いたら漢字が書けて、日本語の本が読めていたの。だから、日本語の勉強は、覚えていない時にやるのがいいのかもしれないね。つらくないし、効率もいい」。

さすが親子です。「効率がいい」ときました。普段から「エネルギーの無駄遣いをしない」と口うるさく言っている私の言葉が移ったようです。

幼い頃のことを覚えていないというのは、「幼児期健忘」と呼ばれる現象で、だいたい3歳以前の出来事はほとんど記憶に残らないのです。要は、それくらいの年代、あるいは、6歳くらいまでに日本語の基礎を学んでしまうのが良いということです。特に外国で子どもに日本語を教える場合、小学校に上がってから「あいうえお」を読ませているようでは遅いのです。

日本語が必要な理由

さて、私がなぜ娘たちに日本語をマスターさせることを決心したのか、その理由は「その1」の回で述べました。実は、娘たちからも尋ねられたことがあったのです。「マミィは、どうして日本語をこんなに一生懸命教えるの?」と。その時は、こう答えました。

「アメリカでしっかり仕事ができるなら、日本語ができなくてもいいのよ。英語ができればね」。

その頃、テレビのニュースキャスターとして活躍していたある日系人の女性は、日本語ができませんでした。また、身近なところにもそんな人たちがいました。バリバリ仕事をこなしている日系人ですが、やはり日本語ができません。彼女たちは、アメリカで人に認められるだけの仕事をしています。もしもそのくらいにやっていけるのであれば、日本語はできなくてもいいということを言いたかったのです。

しかし、私の本心は別のところにありました。子どもたちに流れる日本人の血、そして、アメリカを一歩出た時の彼女たちの「立ち位置」が気になっていたのです。さらに、グローバルな人間になってほしいという、そんな熱い願いを込めて、娘たちに日本語を叩き込んだのでした。

母親の母国語を覚えさせる

言葉に関しては、少なくとも母親の母国語は習得させてあげなくてはならないというのが持論です。父親の国籍がどこであろうと、まず母親の母国語を覚えさせる。その上で、現地の言葉を入れていく。つまり、娘たちの場合は、日本語と英語を同じレベルでマスターさせなければなりませんでした。

ここで、驚くべき日系人姉弟を紹介しましょう。ニューヨークで催されたお茶会に参加した時に知り合った、日系人女性のお子さんたちの話です。

男の子の方は、有名なマサチューセッツ工科大学を卒業し、女の子の方は、これまた難関ハーバード大学を卒業しました。それで、何が驚くかというと、その女の子が7カ国語を話せ、しかも高校生の時に、なんと全米のフランス語スピーチコンテストで優勝したということです。これは大変なことです。ご主人も日本人、つまり、両親が日本人である子どもが成し遂げたことなのですから。

このお子さんたちが生まれつき優秀であるということも大きな要因でしょうが、子どもには限りない能力があるという良い例だとはいえないでしょうか。

私は、子どもは誰でも、その子なりの能力を持っていると思っています。そして、どんな能力であっても、それを花開かせてあげるためには、言葉がとても大切な役割を担っていると確信しています。やはり小学校就学前のこの時期、言葉の基礎づくりに親の力は欠かせません。

※このページは、幻冬舎ルネッサンスが刊行している『ニューヨーク発 ちゃんと日本語』の内容を一部改変して掲載しております。

 

 

 

皆本みみ

1952年、東京都八丈島生まれ。
79年に来米。
JETRO(日本貿易振興会)、日本語補習校勤務を経て公文式の指導者となり、シングルマザーとして2人の娘をニューヨークで育てる。
2007年『ニューヨーク発ちゃんと日本語』(幻冬舎ルネッサンス)を上梓。
現在もニューヨークで日本語の指導者として活動中。

 

 

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mimisenseiteacher@gmail.com

 

 

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