みみ先生の日本語子育て

その1 〈みみ流〉子育て概論

現地邦人の子どもたちに向けて日本語教育を行っている皆本みみさん。「みみ先生」からニューヨークでの日本語教育について大切なことを伝えていく連載。


私はニューヨークで2人の娘を出産しました。上の娘が9歳の時に離婚し、シングルマザーとして必死な思いで子どもたちを育ててきました。2人とも、英語はもちろん、日本語を日本の人々「ネーティブスピーカー」と同じくらいに話せます。そして、日本語を読み、書くこともできます。

外国で育つ子どもにとって、日本語を「話す」だけでも大変なところを、「読む、書く」までをマスターさせるには、親子ともども並々ならぬ努力が必要です。現に、私の周りにいた日系人のお子さんの大部分が成人してからは日本語を話せず、ましてや読み書きまでできる子はほとんどいませんでした。

そもそも、なぜ娘たちに日本語を徹底させたかというと、それは、娘たちの顔を実際に見ていただいたらお分かりになると思いますが、2人とも外見は完全なる「日本人」だからです。

どこから見ても日本人であるわが子が、将来、日本を訪れた時に日本語が話せなかったらどうなるのでしょう。親戚とのコミュニケーションもままなりませんし、第一せっかく日本人の子どもとして生まれてきたのにそれでは片手落ちです。日本語と英語がきちんとできてこそ、環境とチャンスを最大限に生かしたことになるのです。そう考えた私は、何があってもわが子に日本語をマスターさせようと決心しました。

正直言うと、勝手にアメリカに渡り、勝手にアメリカで子どもを生んだという負い目もありました。親としての一種の責任感です。紛れもなく日本人の血が流れている子どもたちのために、どんなことがあっても日本語を身に付けさせる義務が自分にはあると考えました。

 

伸び方は耕し方次第

ところで、私は、ニューヨークではずっと教育に携わっていました。日本語の補習学校の教師から始まり、来米8年目には、「公文式」学習塾で指導をするようになりました。その後は、家庭の事情から「公文式」からは離れましたが、ブランクを経て再び子どもたちに日本語を教えるようになったのです。

もともと子ども好きだった私にとって、それは、「毎日が発見」の充実した日々でした。「みみ先生」と呼ばれ、数多くの子どもたちや彼らのご両親たちから逆にさまざまなことを気付かされ、教えられたと思っています。子どもの脳は、耕されて大きくなっていきます。さまざまな子どもと接するうちに耕し方によって伸び方にも大きな違いが出てくることを学びました。

日本語教育の難しさ

〈みみ流〉の教育は、生活に密着した厳格な教育です。アメリカ在住の日本人の多くには、日本語を楽器や水泳といった習い事と同レベルで捉える傾向がよく見られますが、言語は生活であり、楽器や水泳に比べ、その習得ははるかに困難です。

アメリカで生まれ育つ子どもにとって、日本語を身に付ける場所は家庭しかありません。

〈厳格〉というのは、一歩外に出れば英語しか聞こえてこないアメリカでは、それほど徹底させていかないと日本語の習得は難しいということです。いわゆる「プレバイリンガル」の状態にある子どもたちを、成人してからも2カ国語を自由に使い分けることのできる完全なバイリンガルにする厳しさです。

同連載のテーマは、「異国での子育て奮闘記」と「日本語教育のアドバイス」です。お子さんの日本語教育、そして子育てのヒントになれば幸いです。

※このページは、幻冬舎ルネッサンスが刊行している『ニューヨーク発 ちゃんと日本語』の内容を一部改変して掲載しております。

 

 

皆本みみ

1952年、東京都八丈島生まれ。
79年に来米。
JETRO(日本貿易振興会)、日本語補習校勤務を経て公文式の指導者となり、シングルマザーとして2人の娘をニューヨークで育てる。
2007年『ニューヨーク発ちゃんと日本語』(幻冬舎ルネッサンス)を上梓。
現在もニューヨークで日本語の指導者として活動中。

 

 

 

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mimisenseiteacher@gmail.com

 

 

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