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映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。
アラン・ドロン様がお亡くなりになられたので、図らずも3週続けてパリが舞台の映画を紹介することになった。僕にはニューヨークでしばらく親しくさせてもらっていた画家の先輩がいて、この先輩からフランス映画の名作をたくさん教えてもらった。このコラムでも紹介したルネ・クレマン監督の『太陽がいっぱい』、クロード・ルルーシュ監督の『男と女』もこの先輩から教えてもらった。先輩はアラン・ドロンとジャン=ピエール・メルヴィル監督が組んだフレンチノワールと呼ばれるハードボイルド映画にも傾倒していて、今回の作品はその代表作と言える。
慎重に慎重を重ねる手順で仕事を静かに淡々とこなしていく一匹狼の殺し屋、ジェフ・コステロ。今回の仕事も着実にアリバイを作って証拠を一切残さずナイトクラブのオーナーを消したが、現場を去る時にクラブの専属ピアニスト、ヴァレリーと鉢合わせしてしまう。報酬の受け取りに行くと男はジェフを殺そうと企てるがジェフは間一髪それをかわした。警部は街中の怪しい男を片っ端から連行して目撃者に面通しをさせる作戦に出た。目撃者の前に並ばされたジェフにヴァレリーはなぜか「この男ではない」と証言する。しかし直感的にジェフが犯人だと感じた警部はジェフを執拗に追い回し始め、ジェフは偽証したヴァレリーが自分を罠にかけたものが誰なのかを知っていると判断して彼女を追い回す。パリの裏社会の闇で犯罪者と警察と目撃者の追跡が静かに続けられていく。
ハンフリー・ボガートのアメリカン・フィルム・ノワールもいいが、トレンチコートにソフト帽の男たちはやはり灰色のパリの街をバックに持ってして完璧なイメージになる。僕も実はこのコーディネーションを持っている。ハロウィンの週末に黒のピンストライプのスーツの上からベージュのトレンチコートを羽織りウエストベルトを緩く締め、グレーのソフト帽をキメて家を颯爽と出た途端に近所のおじさんから、「おっ、ディック・トレーシーかい? (コートと帽子がトレードマークのアメコミのキャラクター)」とハロウィンの衣装と勘違いされてしまった。ドロン様、最近はハードボイルドをキメるのも難しい時代になっちまったもんだぜ。
胸のときめき
アラン・ドロン様といえばチャールズ・ブロンソンと並んで昭和の子供時代を懐かしく思い出す映画スターだ。イケメン好きだった母がドロン様の出ていた紳士服メーカーのコマーシャルがテレビで映るたびにキャッキャと喜んでいたのを暖かく思い出す。子供だった僕は「結婚して歳を重ねてもそういう気持ちって薄れないのかな?」と不思議に思っていたものだが、思えばその頃母はまだ30代だったのだ。
僕は今、結婚して25年以上が過ぎ、その当時の母の年齢をひと回り以上多く生きてしまったが、未だに美しい女性を見ると胸がときめいてしまう。これって一生ときめくものなんじゃないかと今では思う。瀬戸内寂聴さんもそうおっしゃっておられた。物欲にも性欲にも左右されない枯れた老人のイメージなんて、若い世代が勝手に作り上げた老人のイメージだったんだと今では理解できる。ドロン様はまさにその映画スター人生を通して、多くの女性の胸をときめかせ、多くの男性の憧れの的になった。ドロン様ありがとうございました。お疲れ様です。安らかに休んでください。
今週の1本
Le Samourai(邦題: サムライ)
公開:1967年
監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
音楽:フランソワ・ド・ルーベ
出演:アラン・ドロン、ナタリー・ドロン
配信:Tubi、Max、他
寡黙な一匹狼の殺し屋ジェフ・コステロが自分を罠にかけた人物を追跡していく。
(予告はこちらから)
鈴木やす
映画監督、俳優。1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。facebook.com/theapologizers
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