レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 VITO (日本未公開)

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


20数年ほど前、僕たち夫婦はある女性と知り合った。マーケティングを専門とするこの女性は彼女が立ち上げようと準備を進めているNPOとその発足を記念するイベントの話を熱心にしてくれた。婚姻関係を希望する同性カップルが集まって集団合同結婚式をプライドパレードの日に挙げて、そのまま参加者と支援者でパレードに参加しようというイベントだった。当時、米国では連邦レベルでも、どの州でも同性婚は法律的に認められていなかったために長年一緒に暮らしていたパートナーが突然亡くなっても遺産の相続が相方に認められないとか、パートナーが死にいたる病気や事故に遭遇しても家族として面会ができないなど同性カップルをめぐるさまざまな理不尽な問題が解決されないまま山積みにされていた。

彼女は「ウエディングパーティー」という名のNPOを立ち上げ、法律やマーケティングの関係者を中心に同性婚を法律的に認めてもらうまで力強く活動を続けた。そして、僕たち夫婦にもぜひ発足イベントの合同結婚式とパレードに参加して欲しいと誘ってくれた。僕は正直に参加すべきか迷った。僕たち夫婦にはLGBTQ(この言葉も当時はなかった)や同性カップルの友人がたくさんいて、もちろん支援する気持ちはあったが、同性愛者でも同性カップルでもない僕たちが参加して、果たして特別なイベントの邪魔にならないのだろうか? 興味本位で参加していると思われないだろうか? 『トーチ・ソング・トリロジー』の劇作家で俳優のハーヴェイ・ファイアスタインが司会としてリードしたそのイベントに異性婚カップルのサポーターとして参加した僕たち夫婦は、その迷いが吹き飛んだ。イベント会場での参加者の人たちは僕たち夫婦を温かく迎え入れてくれて、僕たちの支援の気持ちにとても深い感謝を示してくれた。

以前、1970年代と80年代のサンフランシスコで同性愛者の権利を勝ち取るために命をかけて戦ったハーヴェイ・ミルクの映画を紹介しましたが、今回は同じ時代にニューヨークで同性愛者の権利を勝ち取るために命を燃やした活動家、ヴィト・ルッソのドキュメンタリー映画を紹介します。

沈黙は死

イーストハーレム地区で生まれ育ったヴィトは1969年、ウエストビレッジ地区のゲイバーに警察が踏み込んだことに同性愛者の集団が激しく抵抗したストーンウォール暴動を目の当たりにして、ニューヨーク近代美術館の映像収集スタッフとして働きながら活動家への道を歩み始める。しかし、エイズで恋人や仲間を次々と失い、とうとう彼自身もエイズに襲われてしまうが、少しでも多くの命を救おうと彼は残された命の火を燃やして戦い続ける。

80年代にゲイコミュニティーを襲ったエイズ感染者の増加に対し、当時のロナルド・レーガン政権と共和党の政治家たちの多くは、医療関係者からの度重なる警告にもかかわらず、同性愛者と麻薬中毒者を中心に蔓延したエイズは不道徳な人間たちに対する天罰であると言わんばかりに明らかな対策への無視を続けた。そのため米国内でのエイズの封じ込めに失敗したばかりか、世界中で爆発的に感染者が増加し救えるはずの多くの命を見殺しにした。当時のエイズ活動のスローガンは、SILENCE= DEATH沈黙はまさに死を意味していた。人間の命を倫理観を言い訳にして無視する権力に対して同性愛も異性愛も関係ない。一人でも多くの人たちが声を上げなければならないとこの映画を見て思った。

 

今週の1本

VITO(日本未公開)

公開:2011年
監督:ジェフリー・シュワルツ
音楽:ミリアム・カトラー
出演:ヴィト・ルッソ
配信:KANOPY、Amazon Prime

LGBTQの権利の獲得を求めて戦ったヴィト・ルッソのドキュメンタリー

(予告はこちらから

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。facebook.com/theapologizers

 

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