レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 FLEE (邦題:フリー)

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


この写真を見て欲しい。ある意味でとても悲しい写真である。これは1967年のアフガニスタンの首都、カブールの大学での風景だ。女性はヒジャブを全身にすっぽり被ることも皮膚を覆い隠すことも強要されていない。男性も当時のファッションに身を包んでみんな平和そうに、そして自由に男女共学の高等教育を受けている。

2024年、57年経った現在の同じ国と街の状況は皆さんもご存知だろう。ムジャヒデーィンとの紛争が始まるとソビエトが軍事介入して戦争が始まり、ソビエトが撤退すると次は激しい内戦が続き、そして今世紀に入ってからは、9・11の報復と称して米国がこの国を破壊した。この国を掌握している政治・宗教勢力は、かつてはこの写真に見られるように平和に暮らしていたこの国の人たちの自由と文化、人権を剥奪し尽くし、そしてその勢力を壊滅するという理由で米国やロシアのような大国が何十年にも渡り、爆弾を投下し続けている下の街に住んでいるのも、そうした平和で自由な暮らしを望んでいる私たちと何ら変わらない人たちだ。私たちはそうした想像力を持ち続ける努力を明らかに怠っている。

パンデミックの最中に映画、演劇、音楽などの文化芸術は不要不急というレッテルを貼られた。しかし、今回紹介するような映画を観るたびに、文化芸術を失った私たちの世界がいかに恐ろしく暗い世界になりうるのかと深く考えさせられる。私たちは物語を語り継ぐことでより深い真実とのコミュニケーションをとってきた。

アフガニスタンに生まれ、平和な子供時代から暴力と腐敗と破壊の蔓延る暗い時代を思春期に超えてきた同性愛者の少年の声と、その家族の力強い愛と絆のドキュメントをアニメーションで表現した本作を少しでも多くの人たちに見てもらいたい。そして、その想像力を決して失って欲しくないという願いを込めました。

 

難民鎖国

1980年代後半のアフガニスタン、少年アミンとその家族は軍で働いていた父が消息不明になりながらも、カブールの街で力強く生活していた。西洋の音楽や映画が大好きなアミン少年は部屋に飾ったジャン・クロード・バンダムのポスターに性的な目覚めを感じ始めて混乱していく。そしてムジャヒディーンの侵攻で、カブールの街にも徐々に暴力の足音が近づいてきて、アミンと兄のサイフは軍の関係者に入隊を迫られ、家族はついに観光ビザで入国できるソビエトへの避難を決意する。しかし、混乱と腐敗に満ちたソビエトでの生活は厳しく、長兄がすでに亡命していたスウェーデンへ家族全員で密入国を試みるのだが…。

2024年、我々の住むニューヨーク市だけで18万人近い難民を受け入れてきた。国際社会の難民認定率を比較するとドイツは20・9%、イギリスに至っては68・6%もの難民を認定して社会に受け入れている。日本での難民認定率は2%しかない。国際社会から「難民鎖国」と批判されるのも当然だろう。

 「社会保障は自国民のために使うべきだ」、「我が国特有の文化が乱されてしまう」などの一部の政治家のプロパガンダやSNSの情報を鵜呑みにして正義を振りかざすのは誰にでもできる。しかし、人々が正義を振りかざした先の犠牲になるのはいつも平和と自由を望んでいるだけの人たちなのだ。人が行きたい場所に自由に移動ができる権利、性的指向も含めて自分自身として自由に生きる権利、そして家族と安全に平和に暮らしていける権利というのをこの映画を通じて深く考えてほしい。想像力が世界を救う。

今週の1本

FLEE(邦題:フリー)

公開:2021年
監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン
音楽:ウノ・ヘルマルソン
出演:(声)ファルディン・ムジャザデ、ミラド・エスカンダリ
配信:YouTube、Hulu、Apple TV他

戦争の激化するアフガニスタンから平和を求めてヨーロッパへの避難を試みる家族のドキュメンタリーアニメーション。

(予告はこちらから

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。facebook.com/theapologizers

 

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