ニューヨーク仕事人名鑑

ニューヨーク仕事人名鑑 #57 Hanna Yoko Irieさん

困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。


日米ともに罹患数が年々増加傾向にある乳がん─そんな女性の人生に深く関わるこの病と、ニューヨークで真剣に向き合う日本人女性医師がいる。マウントサイナイ病院で乳がん専門医として活躍する入江先生は、がん患者の“その先の人生”まで見据え、日々患者と向き合い、さらには未来の医療に貢献すべく日々研究にも熱心に取り組んでいる。

患者一人ひとりの人生に寄り添う医療を

彼女が医師を志したのは、ごく自然なことだったという。きっかけは、幼少期からすぐそばで見てきた父の背中だった。「父がニューヨークで医者をしており、子供の頃から父のクリニックに出入りしていました。病気で困っている人を助ける、そんな仕事がとても素晴らしく感じました」。

その後、医学生としてさまざまな分野に触れる中で、彼女は「がん医療」に強く惹かれていく。「がん患者とは、診断から治療、そしてその後の生活まで、非常に長く深く関わることになります。場合によっては一生の付き合いになるケースもあります。それが非常にやりがいのある分野だと感じました。また驚くべきスピードで発展していくがん治療の未来にも興味が湧きました」。日々進化するがん治療への探究心と、人との深い関わりを両立できる道。それが彼女を乳がん専門医へと導いた。

乳がんは、女性にとって身体的だけでなく、精神的・社会的にも大きなインパクトを与える病。入江先生は、医療技術だけでなく“感情面のサポート”を特に重視している。「若い女性が乳がんと診断されると、真っ白になってしまうことがあります。キャリア、家庭、育児…。女性には多くの役割があるからこそ、それぞれのライフスタイルに合った治療法を提案することが大切です」。同病院の乳がんセンターでは、精神科医や放射線医、腫瘍内科医と連携した“チーム医療”が行われており、患者一人ひとりに寄り添い包括的にケアする「ケアコーディネーション」が進化しているという。

命の回復、その瞬間こそが医師としての報酬

仕事のやりがいを問うと、微笑みながらこう語ってくれた。「治療を終えた患者さんが、普通の生活に戻り、元気に過ごしている姿を見ると本当に嬉しいです」。一方で、再発という現実も避けられない。苦しむ患者に寄り添い、支えることができるのは、医師だけが持つ役割だと彼女は語る。「患者さんが一番サポートが必要なときに寄り添える存在であること、それが医師という職業の尊さだと思います」。

入江先生は診療だけでなく、新しい治療薬の開発や臨床試験など、日々研究にも力を注いでいる。また最近では「アジア系女性の乳がん」に関する研究に注目しているという。「最近、アジア系女性の乳がんが増えている傾向があります。他の人種と何が違うのか、治療法はどう変えるべきなのか。こういった疑問にしっかり向き合い、解明していくことで、未来の医療に貢献していきたいです」。その研究成果が新たな命を救う手がかりになることを信じて、今日も彼女は臨床と研究の両輪を走らせている。

 

Hanna Yoko Irieさん

医師

来米年:ー
出身地:ニューヨーク
好きなもの・こと:水泳、バイオリン
特技:多国語が話せる、庭作り

ハーバード大学・ハーバード医科大学院卒業。現在は、マンハッタン区マウントサイナイ病院で乳がん専門腫瘍内科医として患者の診察を行い、自身の研究室では乳がんの遺伝子研究に取り組む。米国日本人医師会の会員であり、米国がん協会にてボランティア活動も行う。日米で行われる共同研究への参加・協力にも関心を持つ。

               

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