今月のテーマ:防犯
最近安全になったといわれるニューヨークだが、政治情勢などによっても犯罪傾向は変化する。安心して暮らすためには当地の現状を正しく理解しておきたい。日々、犯罪事情に目を光らせている防犯の専門家に話を聞いた。
Q.
ニューヨーク市内で最近、目立った犯罪傾向はありますか?
A.
犯罪発生率、犯罪の傾向は社会情勢、景気動向に少なからず影響されると考えています。そして現政権の方針、政策も、当然ながら人々の意識に影響しています。特定の宗教の信者、宗教施設などに対する嫌がらせといったヘイトクライム(憎悪犯罪)が増えていることも、現政権の政策と無関係ではないと思っています。
また、現政権の経済政策で失業率が下がり、経済も良好だといわれますが、実際にその恩恵を受けているのはごく一部の人たちです。最低時給が15ドルになったといえ、市内でゆとりある生活ができるわけではありません。そうした社会、経済に対して抱く、先行き不透明な感覚や不安が犯罪の要因になる可能性はあります。
近年は、テクノロジーを使った犯罪や経済犯罪などのホワイトカラー犯罪が増加していて、引ったくり、強盗など、いわゆるブルーカラー犯罪は減少しているといわれています。しかし、実際にはブルーカラー犯罪が増えることを示唆するような事例が、私のところに報告、相談という形で上がってきています。
Q.
具体的にはどんな事例ですか?
A.
ヘイトクライムで言えば、宗教を理由に「住居から出て行け」と言われたといった事例や、自転車を突き飛ばされた、家の裏庭にナチスのかぎ十字のペイントをされたといった事例。こうした犯罪に対しては、行政、またコミュニティーが一体となって教育をしていくしかありません。
市内各所で開発が進み、以前と比べ格段に治安は良くなっているといわれています。ですが、再開発が急激に進んだことで低所得者層が追い出されたようなエリアでは、新しく移って来た富裕層を狙った引ったくり、強盗といった犯罪被害の話もよく聞きます。以前は廃虚だったようなところに住居がぽつんと立っているというような場合、夜の遅い時間になると、人けがなくなりますから気を付けるべきです。
犯罪者は、あらかじめターゲットを定めてから行動を起こすことが多いです。そのため、まず駅を降りた後に追跡されないよう、店の多い場所を通ったり、いつも違う道順で帰宅したりという予防策があります。不審者に付けられていると分かった場合、コンビニでもレストランでも、一旦避難することをお勧めします。店の人に事情を説明すれば理解してくれるはずです。
また昼間のうちに経路を確認して、どうやったら明るい道、人けがある道にすぐに出られるかといったことも、事前に確認しておくべきです。
Q.
引ったくりなどで最近多いケースはどんなものですか?
A.
アパートの玄関の鍵を開けた際に、後を付けて来た、あるいは物陰に隠れていた不審者が一緒に入って来て、ロビーで襲うといったケースをよく聞きます。アパート内で犯罪が発生した場合は、首を絞めて気絶させる、あるいは脅して部屋まで連れていくこともあります。
鍵を開ける際には、家に近付く段階から、物陰や周辺に不審者がいないかどうかを、注意深く確認してください。不審者が背後から羽交い締めにして犯行に及ぶのは、顔を見られたくないからです。ですので、その前に顔を見られると、行動を起こさずに、その場を立ち去るという可能性が出てきます。鍵は後ろ手にすぐに閉めます。オートロックで閉まるのを待たないようにしてください。

Q.
犯罪多発エリアを見分けるには?
A.
スポットクライム(spotcrime.com)というウェブサイトでは、全米の犯罪発生地点が地図上に示されています。自宅周辺を検索してみると、軽犯罪は意外に身近に起きていることが分かります。
同サイトでは、犯罪発生場所、日時、タイプまでシンボルマークで分かりやすく表示しているので、参考になります。
〈おことわり〉
当社は記事内容に関して一切責任を負いかねます。詳細は各専門家にご相談ください。またこの記事は、2018年に弊紙に掲載した内容に、加筆修正を行ったものです。

橋本晃宏さん
Safeco Risk Control, Inc.代表。
1995年からセキュリティー関連のビジネスを始め、2004年に同社設立。
セキュリティーシステム・スペシャリスト、リスクアナリストとして個人・企業向けに防犯管理サービスを提供している。
元カリフォルニア州立短大講師。
Safeco Risk Control, Inc.
safecosurveillance.com