木を見て、森を見て、木として考えるコラム

<第33回> 東京の変化と、東京から見る 世界の混乱に戸惑いながら

12月のとある金曜日の夜に東京駅前で行われたSRHR(性と生殖に関する健康と権利)関連のデモには約300人が集まり、それぞれの思いを共有した

 

昨年11月、四年ぶりに故郷に2週間滞在した。その一時帰国を終えた際、当連載コラムで私はこう記している「二つの土地の物理的距離は、いくらテクノロジーが発展しても変わらない。ならばせめて時間的距離を縮めるべく、次回は間を空けず来年にはまた帰りたい」

その一年後、また東京に帰ってきた。しかも今回は、約2カ月半に滞在期間をぐんと延長した。

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変化していく東京に順応してみたり、しきれなかったり

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2013年に移住して以来、こんなにも長く東京で時間を過ごすのは初めてのこと。エスカレーターで左側に立つのに慣れてきたな。混雑時、バックパックは手前に背負おう。そうだ、みんながこぞって使っている支払いアプリをダウンロードしようかな。長くいると、ニューヨークとは違う、東京ならではのなにかに順応しようとする自分に気づく。この11年間、ニューヨークでの生活の細かなルールや習慣を少しずつ覚えてきた経験を思うと、ホームに戻り東京でのそれらに倣う感覚はどこか新鮮である。

しかし、それでも追いつけないほどに目まぐるしいスピードで変化している側面も、東京にはある。たとえば、友人や家族から聞くビルや施設の名前にはどれもピンとこないし、実物を見るとその大きさや高さ、充実した内容にただただ驚くばかり。最新のものが溢れるように思われがちなニューヨークを思い浮かべても、渋谷駅周辺の複合ビル群や麻布台ヒルズにあたる存在は見当たらないのだから。

気づけば自分が育った街の各地域の「らしさ」はすっかり薄れ、東京に懐かしさを覚えないことに切なくなる。こんなに続々と出現する新しいものは、「誰のため」なの?一見すると便利で楽しそうな新しさは、しかし「みんなのため」と言えるのかな?そもそも開発というもの自体が、「人のため」より「金のため」なのではないだろうか? ワクワクする奥にはゾクゾクするものも感じ、よくわからなくなる。

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どこを見ても起きている混乱

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他方で、大きな海を越えた米国では、大統領選挙の結果が拍子抜けするほどあっさりと出た。一時帰国を終えて戻ってからの生活は、想像するだけで不安になる。その少しあと、小さな海を隔てた韓国で国家元首の横暴な決定をめぐり政治的混乱が生じた。それを見ている私が身を置いている日本でも、メディアの腐敗やソーシャルメディアの乱用に起因すると考えられる自治体選挙が会話に頻出する。そしてそのほかの地でも、残虐な武力侵略を誰も止めることができず、終わる気配がない。

どこを見渡しても、私たちの世界はその限界に向かって進んでいるように思える。その不穏な空気は、否応なく胸に迫ってくる。

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希望を失わないために

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東京で新しいものに囲まれているにもかかわらず、明るい未来を想像するのが難しい。けれどもそんな状況で不安に飲み込まれそうになりながらも、希望の兆しを見つける瞬間は確かにある。

ソウルでは民衆が国会前を占拠し、連日連夜それぞれが市民としての要求を表明し続けた。それに連動し、韓国系移民を中心に米国各地でプロテストに人々が集まったことをソーシャルメディアを通して知る。東京でも、友人・知人をはじめ多くの人々がよりよい社会・世界のために活動している。アート表現、プロテストやイベント、勉強会や読書会など、一人では小さいかもしれない思いや力を、繋がったり連帯することで大きくしていく動きを知り、救いを得る。私自身も東京でそういった空間に身を置き、多くの学びを持ち帰る。

変化の速さに戸惑い、世界の混乱に心が重くなる日々。それでも、私たちは間違いなくここにいるのだ。どこに住んでいても、どの国の者であっても、人々の声に耳を傾け、小さな行動を積み重ねていくよう努め続けることはできる。それが明日の希望に繋がると信じて、東京での残りの時間と、戻ってからのニューヨークでの生活で、人々との対話や活動、そして執筆を続けていきたい…改めて強く感じている。

 

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

               

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