木を見て、森を見て、木として考えるコラム

<第30回> まだ知らぬものとの出会いを求めて──ニューヨークのブックフェア

読書と本が好きな私は、書店や図書館に足繁く通う。くわえて、本のワクワクを与えてくれる空間がもう一つある──まだ知らぬものと出会える、大小さまざまな規模で開催されるブックフェアだ。

業界向けだけでなく一般の人々が来場できるものも多く、出版物を中心とした集いの場として、コロナ禍を経た今また小さな盛り上がりを見せている。

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ニューヨークのアートブックフェアと言えば

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2006年にPrinted Mattersが始めたNY Art Book Fairは、ニューヨークのブックフェアとしてよく知られているかもしれない。その名の通りアートに特化しており、アーティストやギャラリー系の出版物が多く集まる。

私がこの街に引っ越してきた2010年代初頭にはすでに大人気であったNY Art Book Fairは、拡大を続けている。全てを見てまわるのは困難なほど盛りだくさんな一方で、誰もが聞いたことがあるような大手アートビジネスが大きなブースを構えているのも目立つ。すると、エキサイティングであるものの、「まだ知らぬ出版物やパーソナリティーと出会えるユルい空間」をブックフェアに求めている私は、圧倒されてしまうこともある。

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ブルックリンの小規模なブックフェア

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なのでここ数年は、インスタグラムや書店に置かれているフライヤーなどを参考に、特に自分が住むブルックリン区で開催される小規模なブックフェアを好むようになった。

2022年と今年訪れたのは、BOMB Magazine主催のSmall Press Flea。主にニューヨーク拠点の独立系零細出版社や文芸批評誌、文筆家コミュニティーなど、30程度の団体が参加する。真夏の野外イベントとはいえ、疲れない規模。22年はブルックリン図書館セントラル館と共同で開催しており、この街の出版・読書文化の地域愛が感じられたのを記憶している。今年はブッシュウィック地区の独立系アート機関が場所を提供していた。

今年出向いて印象に残ったものに、St. MarksComics主催のBrooklyn Independent Comics Showcaseもある。4月にブルックリン区のインダストリーシティーの中庭で開かれた。今回が3度目の開催だったそう。こちらも規模は大きくないものの、それぞれ特定の分野においてオタクまっしぐらな出版社から、とことん自由な表現を見せてくれるビジュアルアーティストまで、幅広い。出展していたコミック作家の友人も、ほかの表現者たちとの交流を広げる機会になったと話していた。

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多様な創作との出会い

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こういったブックフェアで、非常に興味深い出会いをいくつも得てきた。個人的に関心が特に高いフェミニズム、反家父長制や反資本主義、アジア系米国のアイデンティティーなどをテーマに表現を続ける存在を知ることができる。専門的研究に基づくアカデミックな書籍もあれば、ノン・アカデミックな立場からパーソナルな語りを重視する出版物もある。zineも豊富だ。

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つくり手とのコミュニケーションが魅力

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そして最大の魅力は、つくり手や出版社の人たちと会話できること。気になる本が多くて決めかねる時、まさに創作・制作した人たちから直に話を聞けるのはありがたい。くわえて、普段は街の独立系書店をサポートするようにしているものの、マーケティングや販路開拓の予算が潤沢ではない独立系の小さな存在から直接購入できるブックフェアも、同じく貴重である。そうやって出会った出版社が自宅から徒歩2分の場所にオフィスを構えていることがわかり、今は直接そこで本を買わせてもらうこともある。

文筆家やアーティスト、出版社などともっと近い距離で接してみたい…そう思っている方は、ぜひブックフェアも試してみて。ちょうど今月22日から30日まで開催されるBrooklyn Book Festivalは、期待の作家から著名な方まで数日に渡りラインナップされた文芸イベントで、初めての方も計画的に楽しみやすいかも。

 

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

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