コロナ禍で飲食店の入れ替わりが激しかったニューヨーク。パン屋においても新店が続々とオープンしている最近、こだわりのサワードウ生地のパンや個性的なクロワッサン、日本スタイルのサンドイッチなどが話題だ。今号では、2022年から今年にかけてオープンした注目のベーカリーを一挙紹介。
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親の目を盗んで、こっそりイクラをおやつに頬張っていた幼少期。すしと共に育ち、すしを愛しながらも、父の店を継ぐ予定は全くなかった。そんな「初花」2代目社長、佐藤圭太さんのエグゼクティブとしての挑戦は、シカゴから始まった。
父・活栄(かつひで)さんは、高校卒業後に板前になり、単身ニューヨークに渡ってきた苦労人。飲食業の大変さが分かっていたからか、父から店を継ぐように言われたことは一度もなかったそうだ。「動物が好きだったので、獣医になろうかと思っていました」と佐藤さん。
しかし大学を卒業後、進路に迷い、店を手伝うことに。マネジメントの勉強をしてきたことを生かし、アシスタントマネジャーに就任。そして1年経ったある日、突然シカゴ店(当時)の社長就任を言い渡された。創業44年のすし店の看板を背負うことになった佐藤さんは当時25歳。
「板前は全員、50代前後のベテランたち。社長になった僕が、『知らない、分からない』なんて、とてもじゃないが言えませんでした」
見知らぬ地で週6日、朝から晩まで働き詰めた。社員から聞かれたことは全部勉強して答えられるようにした。それでも仕事上がりは毎夜、食事に出掛けていたというから驚きだ。「疲れを感じたことなんてなかった。若さってすごいですよね」と当時を振り返り、笑う。
この叩き上げの経験から、「最初は何もできなくて当然」という考えを持つようになった。まだできない、と考えるのではなく、やらないとできるようにならない。
父の跡を継ぎ、2006年にニューヨーク本店の2代目社長に就任。「やらないとできない」のスピリットは経営にも表れていて、「飯炊き3年」と言われる業界ながら、板前の希望者は国籍・未経験ともに不問にしている。「やる気があれば十分。むしろ、未経験なら、初花の色にうまく染まってくれると思うので歓迎ですね」。
一方、創業以来44年間変わらない、「品質第一」のビジネスモデルは、大切に守り続けている。
「品質を大事にしてきたから、常連の皆さまが世代を超えて、初花に足を運んでくださっている。歴史の長さだけは、絶対に他店が真似できないものです」
オープンキッチンでのおまかせメニューで勝負するすし店が増えている中、初花は変わらず、アラカルトをメインに据える。「すしは、食べたいネタを食べたい量楽しめることが、一番の魅力と感じています」。佐藤さんの思いを乗せて、今日も板前らが、老舗の流儀ですしを握る。
現在、10歳と6歳の子供を持ち、自身も父親となった佐藤さん。その情熱と希望は、次世代にどう受け継がれていくだろうか。
佐藤圭太(さとう・けいた)
ニューヨーク生まれ。ニューヨーク大学卒業。
実家業である「初花」ニューヨーク店のアシスタントマネジャーを経て、
2000年にシカゴ支店(現在は閉店)社長に就任。
06年よりニューヨーク本店の2代目社長に就任。
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