2018/07/13発行 ジャピオン975号掲載記事

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日本人建築家が描く
NYで橋を架ける夢

自動車や鉄道が登場する以前、人間は橋を歩いて川を渡っていた。橋ができれば人、モノ、金の流れを生みが始まり文化を発展させる。そんな原点に立ち返って、歩行者専用橋をニューヨークの川に架ける計画が現在進行中だ。

「新橋」プランの舞台はクイーンズとブルックリンの区境を流れるニュータウンクリーク川。エリアでいうとロングアイランドシティー(クイーンズ)とグリーンポイント(ブルックリン)との間なので、本プロジェクトは「ロング・ポイント・ブリッジ」という仮称を持つ。全長84メートル、木製で、二つのトラス(細長い素材を三角形につないだ構造)を支える部分のみが固定されているが、他の橋脚は「ポントゥーン」と呼ばれる浮きの上にのっている。船の通行のたびに開閉できる仕掛けだ。

橋がないのが不自然
デザインを発案したのは日本人建築家、相崎準さんが率いる設計事務所「クレーム(CRÈME)」。各方面で注目を浴び、本年度の「NYCxDESIGN」賞オンザボード部門最優秀賞に選ばれた。

「計画は10年ぐらい前から温めていました。僕自身ブルックリン在住者ですが、あそこに橋がないのは不自然だと思っていたんです。そして、調べたら実際、1954年まではバーノンアベニュー橋という跳ね橋があったことが分かりました」と相崎さんは語る。

「クレーム」は、ミッドタウンにあるイベンティホテルのロビーやレストランの内装をはじめ、全米各地および日本で個性的な建築を発表する気鋭の事務所だ。古材や再生感のある素材をモダンなデザインに生かすのを得意とする。
橋のデザインは相崎さんにとっても初めてのチャレンジ。「あの位置に橋ができることによって地下鉄駅への徒歩アクセスも良くなるし、ブルックリンとクイーンズ両区の住民の往来も増える。アイディアは大勢の支持を得ています。僕は、100%実現すると信じています」

橋ができるのが大切
相崎さんは橋設計の専門家ではない。現在、展開中の資金集めが順調にいけば、次のフェーズでは橋専門の土木技師をチームに招き入れるという。

「現行のデザインは、あくまでも検討材料として、ビジョンを提供するのが目的。実際の設計となったらきっと修正がたくさん入るでしょう。でも、僕はそれで構わない。このプロジェクトで大切なのは『橋ができること』であって、橋の形状うんぬんではないのです」

新しい橋を架けるなどニューヨークでそうそうあることではない。ロング・ポイントの建設予定地は、二つの行政区の管轄がオーバーラップしている上、地下を走るMTA、護岸を管理する陸軍や沿岸警備隊、そして周辺の不動産開発業者などとの意見調整や許可取得の煩雑さは半端ではない。相崎さんが最も頭を悩ませる部分だ。さりとて橋造りが社会に与える効果は計り知れない。

「日本人の気質からか、未使用の土地が無駄に余っているとなんとかしたいと思っちゃうんです」。確かに現在の建設予定地は、両サイドとも交通の便が悪く、ちょっと荒廃感がある。また、ニュータウンクリークの2世紀にわたる水質汚染の蓄積は、残念ながら全米最悪だ。エリアには改善しなくてはいけない環境も山ほどある。

「今回の橋プロジェクトで市民の関心が少しでも川に向かうことを夢見ています」。相崎さんが心に描く「懸け橋」は実物以上にスケールが大きい。

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CRÈMEがデザインした木製のロング・ポイント橋の完成予想図。大型船の通行時には二つのトラスが支柱を軸に回転して橋が開く(PhotoCourtesyof CRÈME)
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お話を聞いた人
相崎準さん
CRÈME代表。埼玉県生まれ。プラット・インスティテュート建築学部卒業。ロックウェルグループでデザイナーを務め、レストランの内装デザインで数々の賞を受賞。独立後にはレストランに加え、家具やホテルのデザインも手掛け、米国内外で高い評価を得ている。
www.cremedesign.com


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