2017/12/01発行 ジャピオン944号掲載記事


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 窓の外に広がる景観や建物内部の構造というより、純粋に外観そのものに価値を見い出され、映画でもてはやされる建物もある。それが1902年建築のフラットアイアン・ビルだ。

 その三角形の薄い、いかにも「フラット」な見た目から付けたと思われがちな名前は、西海岸のゴールドラッシュで財を成した、ニューハウス兄弟が購入したこの敷地の名前が由来。

 出てくる映画の代表例はやっぱりアクション映画「スパイダーマン」(2002)。主人公ピーター(トビー・マグワイア)がカメラマンとして勤める新聞社がある。劇中ではスパイダーマンも戦闘シーンで外壁に飛びついた。

 サスペンス映画「ユージュアル・サスペクツ」(1995)でも、主人公ディーン(ガブリエル・バーン)の恋人の法律事務所がこのビルの中にある設定だ。成功したニューヨーカーが勤めるオフィスビルの理想像、と言ったところだろうか。

 ヒーローも貼りつくあの独特のフォルムは、元々はシカゴの建設事務所オフィスとして建設されたもの。地上22階建て、高さは約87メートルある。設計者は、摩天楼の街・シカゴで活躍した高層建築の先駆者、ダニエル・バーナム。

 鉄骨に石灰岩とテラコッタを組み合わせた、無骨なボザール様式は、建設当時の米国ではやっていたデザインだ。外観の特徴的な鋭角は、最少でなんと幅1・8メートルしかない。

 ビル建築当初は、特筆すべきものがないエリアだったが、フラットアイアンビルが注目されて観光客が増えたことにより、エリア自体の評判もアップ。1920年ごろからは「フラットアイアンエリア」としての地位を確立し、レストランなどが立ち並ぶ、おしゃれなマンハッタン地区の仲間入りを果たした。もしもこのビルが別の形だったら、スパイダーマンが飛び移ることもなかっただろう。

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住所: 175 5th Ave.
竣工: 1902年
設計者: ダニエル・バーナム


 ラブロマンス映画「めぐり逢えたら」(1993)で、サム(トム・ハンクス)がアニー(メグ・ライアン)とバレンタインの日に会ったエンパイアステート・ビルは、言わずもがなニューヨークの摩天楼の代表格。高さは381メートルで、世界貿易センタービルができるまでは、ニューヨーク一高いビルだった。

 SF映画「オブリビオン」(2013)でも、ジャック(トム・クルーズ)が在りし日に恋人と展望台でデートをした回想シーンに出てくるなど、主にロマンチックなデートシーンを彩る印象が強い。

 1893年建設のウォルドルフ=アストリア・ホテルの跡地に建てられた、この建物の建設工事は1930年に着工。ちょうど、当時世界一高かったクライスラービル(318・9メートル)が竣工した年だ。

 エンパイアステートは、一週間で約4階分の骨組みを作るなど、かなり急ピッチで作業が進められた。その理由は、「一刻も早くクライスラーより高いビルを」というビルオーナーたちの対抗心に他ならない。どちらのビルも鉄骨のアール・デコ様式。当時の「高層建築ラッシュ」がどんなものだったかがうかがえる。

 竣工は31年。ちなみに、あの「キングコング」がこのビルに登ったのが33年なので、キングコングは当時最先端のビルによじ登っていたことになる。扱いこそダイナミックだが、登られたエンパイアステートは大喜び。続く「キングコング2」で登られなかったことに抗議したといわれている。

 86階のメーンデッキは、ニューヨーク市内では最も高い屋外展望台として有名。大切な人と一度そこから街を見下ろせば、映画のようにドラマチックな思い出が残るかも。

 また、アール・デコのデザインのロビーも一見の価値あり。2006年の改修工事では、オリジナルの金とアルミニウムのデザインを残し、竣工当時の優雅さを完全再現した。

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住所: 1350 5th Ave.
竣工: 1931年
設計者: シュリーブ・ラム&ハーモン


 世界経済の中心地、ウォール街に鎮座する、フェデラルホールとニューヨーク証券取引所。ほぼ向かいに位置する建物なだけに、映画でも同じカメラの中に仲良く収まることが多い。

 金融街とメディアの駆け引きを描いた「マネーモンスター」(2016)では、やり手の司会者、リー(ジョージ・クルーニー)が野次馬を連れて颯爽(さっそう)と歩き去るシーンが、まさに「成功者」という印象。また「インサイド・マン」(06)では、銀行強盗の舞台となる銀行がこのすぐ近くにある設定。「警備が強固なはずの、金融街のど真ん中でどうやって?」という疑問が、強盗たちの手腕の鮮やかさを裏付ける。今なお、この二つの建物が人々にもたらすインパクトは強い。

 フェデラルホールの存在自体はかなり古く、旧舎は1700年建築。市庁舎、連邦政府庁舎など用途を変えてきた。現在のギリシャリバイバル様式の建物は1842年に、米国税関局として再建されたものだ。

 正面にどっしり構えた、ギリシャ・アテネのパンテオンのごとき威厳を持つ支柱が目を引く。一方、内部の大広間は純白で、ドーム型天井はローマのパンテオンをイメージ。二つの異なるスタイルが融合している点も興味深い。

 証券取引所もなかなかの歴史があり、1903年に竣工。設計者のジョージ・B・ポストはボザール様式の名手だが、この取引所は彼には珍しい古典的なデザインだ。息子が株式仲介人として働いていたポストは、立会場に必要なものを追求。革張りの座席など、建物の内装部分まで細かくデザインした。

 一見異なる背景があるこの二つの建物、実はどちらも彫刻家ジョン・クインシー・アダム・ワードが関わっている。彼はフェデラルホール正面にそびえるジョージ・ワシントン像(1883年設置)を作成し、証券取引所では農工業、科学、産業、発明などをつかさどる、人型の彫刻を担当した。

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住所: 26 Wall St./11 Wall St.
竣工:フェデラルホール=1842年/NYSE=1903年
設計者:フェデラルホール=イチエル・タウン、アレキサンダー・ジャクソン・デービス/NYSE=ジョージ・B・ポスト


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