2017/01/01発行 ジャピオン897号掲載記事


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小児科・遺伝分野で日米の架け橋に
大石公彦さん(医師)
 小児科・臨床遺伝専門医として、マウントサイナイ病院で先天代謝異常症の治療に携わる大石公彦さん。アメリカでは、約50種類の先天性疾患の早期発見と治療が、各州レベルでシステム化されている。全ての新生児を対象に、スクリーニングが公費で実施されているのだ。

 アジア諸国が遅れをとっている分野でもあり、アメリカの現状を知りたいと、2015年には日本の「患者の会」から相談が持ち込まれた。16年3月には国会議員会館で、遺伝医療における日米の異なる現状の報告を行うなど、アメリカで学んだことの日本への還元に務めた。16年10月には中国でも小児科医を対象に講演している。

 先天代謝異常症は、放置すれば命にかかわることもある。大石さんは、「早期発見・治療により、失わずに済む命を守り、発達障害などの後遺症も予防できます。アメリカのシステムを、日本を含むアジア諸国で役立てられるよう、今後も患者、医師、企業、政府レベルでの働き掛けを続けていきたい」と話す。

 社交的な性格も手伝って、日米医療の架け橋的な役割を担うことが多い。

 「年明けにも実現しそう」なのが、日米間の医師の交換研修制度だ。16年は勤務先のマウントサイナイ病院で、小児科・遺伝学研修医プログラムのアソシエート・ディレクターに就任。「これを機会に」と、自費で上司(プログラム・ディレクター)の航空券を購入し、〝計画〟を見切り発車させた。その上で母校・慈恵医大と交渉し、結果的に同院と慈恵医大の医師交換研修制度設立にこぎ着けた。「あとは書類にサインするだけ」と言う。同制度で日本に行く医師に、三井USAから、米国日本人医師会(JMSA)経由で奨学金も出ることになった。

 まだある。大石さんが、米北東部在住の日本人小児科医の会を作ったのが14年。「若い医師が多いので、彼らがアメリカで学術的な実績を残し、しかも日米の小児科分野で役に立てないかと考えた」のだという。

 アメリカからの情報発信の手段として、医学雑誌に目をつけ、「小さな子供を連れて赴任する日本人駐在員が多い中、日米で異なる小児科医療について、日本の小児科医に情報を提供しましょう」と出版社に売り込んだ。結果、16年から医学雑誌「小児科臨床」で連載が始まった。執筆は日本人小児科医の会の若き医師たちだ。

 17年4月8日(土)には、第3回JMSAサイエンスフォーラムも開催される。


大石公彦さん
日米両国の小児科・臨床遺伝専門医師。東京慈恵会医科大学卒業後、小児科勤務を経て1998年来米。小児遺伝病や先天代謝異常症の臨床と研究に従事。2015年から、医療と他分野をつなげる一般向け科学セミナー「JMSAサイエンスフォーラム」を始める。日本小児科学会専門医師。

Icahn School of Medicine
at Mount Sinai
Departments of Pediatrics,
Genetics and Genomic Sciences
1 Gustave L. Levy Pl.
TEL:212-241-6947(遺伝科代表番号)


マウントサイナイ病院で先天代謝異常症の患者と一緒に。毎年NYCマラソンにも参加する大石先生。2016年は患者支援プログラムへの募金のために走り、3000ドルを寄付した

日本文化を世界へ広げたい
サム・ベットさん(翻訳者・通訳者)
 日本の文化庁が主催した翻訳コンクールに応募し、16年1月、最優秀賞を受賞。日本語の小説とエッセーを英訳し、「溌剌(はつらつ)とした翻訳」「作品の詩情を見事に捉えた」など、審査員から高い評価を得た。受賞の感想を聞くと、「うれしかったんですが、ちょっと悲しかったですね」と意外な答えが返ってきた。

 マンハッタンの技術系翻訳会社に勤めるサム・ベットさん。平日の夜と週末はフリーの翻訳者兼通訳者として、主に日本の文芸作品やアート、ファッション関係の仕事をしている。

 初めて日本に行ったのは大学2年の夏休み、長野県で人形浄瑠璃文楽を学ぶ外国人向けプログラムに参加した。日本語の学習はもちろん、地元の人と交流し、日本の伝統文化を体験したいと思ったからだ。兵庫県の関西学院大学にも1年間留学し、日米の大学で日本語と日本文学を学んだ。日本滞在中は、日本について新しい発見や気づきも多かったという。そのときの経験が、翻訳の仕事にも生きている。

 「文芸作品の翻訳は、作家が作った作品の世界に入らなければできません。作品の背後にある〝歯車〟を(原作と)同じように組み立てながら、表面的な文章の美しさも考えます」

 アメリカ人が接する日本文化はごく限られていて、誤解が多いとも感じている。「ある国の文化を、言語も文化も違う国に伝える責任が翻訳者にはあります」とベットさん。翻訳コンクール最優秀賞受賞を手放しで喜べなかったのは、自分より高評価を受けた応募者がいなかったから。翻訳者全体のレベルアップのため、「みんなでもっとがんばろう」とハッパを掛ける。

 17年は、三島由紀夫の小説を英訳した作品がアメリカで発売される。ベットさんが手掛けた文芸作品の中では、これが初めてだ。日本の文芸雑誌「モンキービジネス」のアメリカ版に、翻訳コンクール受賞作品が掲載されることも決まっている。

 「私たちは、言葉でアイデアをシェアします。力のある人間が言葉を悪用すれば、それだけ被害も広がります。翻訳者の一人として言葉の悪用を許さず、真実を伝える重要さを守る活動にも取り組みたい」と、新たな挑戦にも意欲的だ。

 リラックスしたいときは散歩する。

 「どこに行っても面白いニューヨークは、散歩に最高の街です。友達と話すのも歩きながらが一番楽しいし、散歩は一生続けると思いますね」


サム・ベットさん
マサチューセッツ大学で英米文学と日本語の学士号取得。2008年尼崎日本語スピーチコンテスト優勝、小川洋子著「涙売り」他1作を英訳し16年翻訳コンクール(文化庁主催)最優秀賞受賞。日本語能力試験第1級取得。翻訳者兼作家の朗読会も主宰する。

Best Bett
sam@bestbettjapanese.com
www.bestbettjapanese.com

Us&Them
www.usandthemreading.com


2016年3月に東京で行われた翻訳コンクール受賞式にはアメリカから駆け付けた


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