2016/10/28発行 ジャピオン888号掲載記事


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読書の達人が選ぶ! 読者にすすめたい入門米文学
アシャンティ・ホワイト=ワラスさん
ワード・ブックストアズ在庫管理担当者

 ブルックリンのグリーンポイントと、ジャージーシティーの2カ所に店舗を構えるワード・ブックストアズは、地域に密着したインディペンデントの書店。店舗の規模こそ大きくないが、同店運営のブッククラブもあり、本好きなニューヨーカーたちが集まるスポットとして人気だ。

 アシャンティさんは、同店の在庫管理を担当する書籍のエキスパートで、話題の米文学は逐一チェックしているという。2週間に1、2冊は読破するそうで、特に風刺やセクシーホラーが好み。

 そんなアシャンティさんがジャピオン読者向けに選んだのは、古典フィクションと、最近自身がはまっているジャンルだというノンフィクション。全てニューヨーク出身および在住の作家の作品でそろえている。

 ノンフィクションは現代のニューヨークが抱える問題や文化に斬り込む意欲作。一方フィクションは、昔から米国の子供たちに愛され続けるSF小説。古典と最新作を読み比べることで、米国史の移り変わりを感じることができるのではないだろうか。

 アシャンティさんのネーティブ向けの選書は同店ウェブサイトで公開されているので、英語での読書に慣れてきたら挑戦しよう。

WORD Bookstores
www.wordbookstores.com
「A Wrinkle in Time(五次元世界のぼうけん)」


Madeleine L’Engle・著/Macmillan/2010年

 行方不明になった科学者の父を探すメグは、3人の不思議な老婦人の助けを借りて、弟のチャールズ・ワラス、友だちで霊感を持つカルビンと共に、時空を超える旅を始める。マデレイン・レングルの代表作で、1963年に児童文学の権威であるニューベリー賞を受賞した、ジュブナイル小説。今年夏には、ディズニーが映画化を正式に発表、現在制作中とのこと。
 「今回の選書の中でもひときわ古典ですが、大人でも楽しめるファンタジーですよ」とアシャンティさんはおすすめする。
 

「The Clancys of Queens: A Memoir」


Tara Clancy・著/Random House LLC/2016年

 ニューヨーク出身のライター、タラ・クランシーの回顧録。クイーンズのボート小屋、ブルックリンにあるイタリア系コミューン、ハンプトンにある邸宅と、三つの「家」で過ごした奇妙な幼少期をはじめとした、自身のユニークな半生を描く。アシャンティさんは、「労働者階級の女性の視点からニューヨークを描く回顧録という点では、『A Tree Grows in Brooklyn』(左ページ参照)と共通しますが、同書の発売から70年経った今、現代版として改めて、『The Clancys of Queens』を読んでみてください。ニューヨークが新時代を迎えた、魅力的な年代を描いているのも特徴です」と語る。

「Between the World and Me」


Ta-Nehisi Coates・著/Random House LLC/2015年

 雑誌「ザ・アトランティック」のライターであり、ジャーナリストである著者、タ=ナハシ・コーテスが、10代の息子に宛てた手紙という形式でつづる、回顧録式エッセー。黒人としての自身の人生経験を基に、米国での差別の歴史や、現代に今なお残る、人種差別問題を提起する。今年のピューリッツァー賞の最終候補作であり、2015年のナショナル・ブック・アワードのノンフィクション賞受賞作。

 「現在議論が過熱する黒人の人権問題が提起されている、タイムリーな本です。この地球に住むすべての人が、必ず読むべき本だと思います」とアシャンティさん。
 


秦隆司さん
ブックジャム・ブックス主幹

 ブックジャム・ブックスのターゲットは、より多くの米文学を原語で読みたい日本人。同社は2011年からマンハッタンのグリニッジビレッジから、アメリカ出版界の最新情報を、オンラインで日夜発信している。 

 米文学の最先端を見詰める主幹の秦隆司さんは、編集長を務めた雑誌「アメリカン・ブックジャム」で、名作ゆかりの場所の紹介や、流行の書籍をピックアップなど、多岐にわたるアプローチで、英語での読書の魅力を日本人に伝え、応援してきた。

 個人的にも年間25冊以上を読む秦さんは、自宅カウチの上で、自然科学や社会学のノンフィクションを好んで読むという。

 そんな秦さんが読者向けに選んだのは、米国で活躍する作家たちの短編集二つと、スリラーアンソロジー。短編集には、格差社会に苦しむ人々を描いた作品や、文化の多様性をテーマにした作品など、米国に住んでいるからこそ読んでほしい、メッセージ性の強い物語がそれぞれ展開されている。

 一方アンソロジーでは、ミステリー好きなら納得の名作家が集結。英語でミステリーを読んでみたい人にもうってつけの、入門の一冊だ。

「Thriller: Stories to Keep You Up All Night」


James Patterson・編/MIRA/2012年

 FBIプロファイラーの主人公は、車の旅の途中に接触事故を起こす。現場検証が行われる中、接触した車の運転手の母親が、ある秘密を主人公に告げる(「Goodnight, Sweet Mother」)。本書は米国を拠点に活動する「国際スリラー作家協会(ITW)」が企画した、スリラーアンソロジー。著者はゲイル・リンズ、デニーズ・ハミルトン、ジョン・レスクワなど、ミステリー好きなら知っている大物作家が勢ぞろい。

 「スリラー中毒者にはたまらない本ですね。人気作家のジェームズ・パタースンが編集を担当しているのも魅力です」と秦さん。
 

「This Is How You Lose Her」


Junot Diaz・著/Penguin Group LLC/2012年

 本命の彼女、マクダレナに浮気相手の手紙を読まれ、関係がぎくしゃくしたことに悩むユニオール。ついに、マクダレナに「What the hell you think this is? (俺たちの関係は一体何なんだ?)」と詰め寄るが…(「The Sun, The Moon, The Stars」)。ドミニカ共和国で生まれた著者、ジュノ・ディアズの短編9編を収録。米国社会の主流から外れつつも、たくましく生きる移民の人々を描いたトラジコメディー(悲喜劇)だ。

 秦さんは「移民たちには、米国でも祖国でも、社会の外にいる感覚が常に付きまといます。著者はその断層を鮮やかに描いてみせてくれます」と語る。

「Will You Please Be Quiet, Please?(頼むから静かにしてくれ)」


Raymond Carver・著/Random House LLC/2015年

 酒におぼれた過去を乗り越えて、妻と子供と幸せに暮らす教師ラルフ。しかし、妻が数年前の浮気を告白したことから、彼の日常は狂い始める(「WillYouPleaseBe Quiet, Please?」)。米文学界を代表し、短編小説の名手として知られるレイモンド・カーヴァー。この本は短編22編を集めた、カーヴァー初めての短編集だ。

 「カーヴァーの魅力は、彼が描く心の中の荒涼とした風景と、そこから得られる深い余韻ですね。一つの物語を読み終わるごとに本を置き、目を閉じて深いため息をついてしまいます」と秦さん。
 


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