2016/09/02発行 ジャピオン880号掲載記事

Pages:      

The Met Cloisters
99 Margaret Corbin Dr.
TEL: 212-923-3700
www.metmuseum.org/visit/met-cloisters
メトロポリタン美術館クロイスターズ分館
フランスの中世僧院を移築して1938年に開設されたクロイスターズ分館。美しい回廊に囲まれた中庭が三つあり、リーチさんを中心に3人の園芸員が中世より伝わるハーブを始め、400種類以上の植物を栽培
同館の看板となる展示品、15~6世紀フランドル地方のタペストリー「ユニコーンの狩り」。背景に当時人気だったハーブや植物が描かれている。同館のハーブ園に同じ薬草が植えられている。円内のハーブはセージの一種だという
お話を聞いた人

ケーレブ・リーチさん
メトロポリタン美術館クロイスターズ分館園芸部主任

大学では比較文学を専攻したが、農場で育った経験を生かし、ブルックリン植物園で10年間勤務。2年半前から現職に。植物の視点で人間の文化や歴史を解明する「植物民族学者」を目指している。

園芸家が語る、
伝統的な癒やしのハーブ

「スカボロー・フェア」の原曲は中世イギリスの俗謡。歌の一番は、旅人に向けた疑問文と命令文から始まる。

スカボローの市に行くのかい?
パセリ、セージ、ローズマリーそしてタイム
あの町に住む人に伝えておくれ
僕がかつて本気で愛したあの人に

 二番以降は、語り手(森の悪魔とも死霊とも言われる)が、「縫い目のないシャツを作れ。革の鎌で麦の穂を刈れ。そしたらヨリを戻すから」とスカボローに住む昔の恋人に向けて無理難題を投げ掛ける。そこに「パセリ、セージ…」と4種ハーブの名前が合いの手のように絡む。

 一体この4種ハーブは何を意味するのか。中世ヨーロッパのハーブを育てているメトロポリタン美術館クロイスターズ分館園芸部主任のケーレブ・リーチさんはこう解釈する。

 「4種とも西欧では古くから使われてきた、重要なハーブです。中世から言われてきたその薬効に注目すべきでしょう」とリーチさん。

 例えば、パセリは、とても繁殖力旺盛。根にも栄養があって整腸剤の代わりに使われた。いわば「体力回復」の薬草。

 セージは料理に使えば血行がよくなるし、傷口に当てれば治癒を促進する。一般に「癒やし」の薬草と考えられていた。

 ローズマリーは「思い出」のハーブ。あの豊かな芳香が、大事な人や大切な記憶を蘇らせる効果がある。

 タイムは語源のギリシャ語「タイモス=勇気」の通り、気分を「高揚」させるハーブ。抗菌作用に優れ、料理の防腐剤としての効能があった。

 「あの歌の主人公は、失恋の痛手で相当傷ついています。心理状態もかなりネガティブです。その彼を慰め、回復、蘇生させるのが4種のハーブの役目になっているのです」とリーチさんは続ける。

 「パセリ、セージ、ローズマリー、そしてタイムとは、〝体力を『回復』して、傷を『癒やし』、つらい過去を良き『記憶』として整理し、再び気分を『高揚』させようよ〟という、立ち直りへの激励を薬草に託して伝えたものではないでしょうか?」と植物学者らしい分析をしてくれた。

 次ページからは、それぞれのハーブの効能と使い方を、もっと詳しく見てみよう。

「スカボロー・フェア」について
 サイモン&ガーファンクルが1966年に発表したアルバム「パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム」に収録されている「スカボロー・フェア/詠唱」が特に有名だが、もともとはイギリスおよびスコットランドで中世から歌われてきたバラード。かつての恋人に向けて「縫い目のないシャツを縫いなさい」「枯れた井戸で洗濯をしなさい」といった実行不可能なことを持ち掛け、真の愛を問い掛けるという内容。繰り返し登場するパセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイムという歌詞は、 それぞれのハーブの持つ力・効能を象徴的メタファーとして表現していると考えられているが、また、一説には魔除けの言葉ととらえる向きもある。

 65年にロンドンでこのバラードを聞いたポール・サイモンが気に入り、自らが63年に書いた反戦歌「サイド・オブ・ア・ヒル」の歌詞を掛け合いに用い、当時のベトナム戦争反対の風潮を反映したフォークソングにアレンジ。映画「卒業」(マイク・ニコルズ監督、68年)の挿入歌として使われ、世界的にヒットした。


Pages:      

過去の特集

NYジャピオン 1分動画


利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント