2016/05/27発行 ジャピオン866号掲載記事


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地道な基礎研究の先に夢見る世界

ロックフェラー大学 生化学・分子生物学研究所勤務 伊藤慶一さん



東京都出身。幼少期をアメリカで過ごす。東京大学理科2類農学部卒、同大大学院新領域創成科学研究科で理学博士号を取得。東京大学医科学研究所にポスドクとして1年半所属した後、2014年10月からロックフェラー大学の生化学・分子生物学研究所に所属。


顕微鏡で細胞を観察する伊藤さん。上司のロバート・レーダー教授の研究室では、他にも多くの日本人研究者が所属し、日々研究に励んでいる
 「生物学の研究というのは、泥くさい作業なんです。目標に向かって、地道な努力をずっと続けないといけない。その精神を僕はサッカーから学びました」と語るのは、ロックフェラー大学の生化学・分子生物学の研究所に勤務する伊藤慶一さん(31)だ。

 小中高大はずっとサッカー部に所属。社会人チームでも活動していた。大学 3年生のときに靭帯(じんたい)を損傷した経験から、再生医療の分野に興味を持つようになる。

 大学院生のころ、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の研究で知られる、京都大学の山中伸弥教授が、ノーベル生理学・医学賞を受賞。再生医学に更なる期待が高まっている時期だった。

ヒトの臓器の中で、最も再生機能が高いのが肝臓。たとえ70%を取り除いても、自然と元に戻るのだという。そこで大学院生時代は、iPS細胞から肝臓の元になる細胞を作る研究を行っていた。そこから、そもそもヒトや動物はなぜ、たった一つの細胞である受精卵から、何百にもわたる種類の細胞ができていくのかという、発生学の分野の研究に興味が広がっていく。

 
夢は病気の解明

 動物細胞の核の中には、DNAが連なってできた染色体がある。この染色体の中に、「遺伝子」と呼ばれる特殊なDNAの配列が、2万3000種類程度存在する。核の中にある特殊な装置「RNAポリメラーゼ」が遺伝子の配列を読み取り(「転写」と呼ばれる)、よく似た化学物質であるRNAを合成。RNAが核の外に運ばれ、タンパク質へと変換される。この一連の仕組みは「遺伝子発現」と呼ばれる。

 「大学院を終える頃から、『転写』という現象がなぜ、どのようにして、正確に『制御』されるのかということに強く興味を持つようになりました。これは、体がきちんと働くための、もっとも根本的かつ重要な仕組みなのですが、実はまだ分かっていないことだらけ。毎日ワクワクしています!」と目を輝かせる伊藤さん。

 大学院卒業後は、RNAポリメラーゼの発見者であり、転写の研究分野の権威である、ロックフェラー大学のロバート・レーダー教授の研究室にポジションを得て、研究にいそしんでいる。

 遺伝子の制御の仕組みが破綻すると、奇形で生まれてきたり、大人になってからガンや生活習慣病になったりする。そのため、伊藤さんは、「転写」そして「制御」といった基礎的な研究こそが、病気の解明に一番大事だと考えている。
 

息抜きはサッカー
 
 研究漬けの日々だが、息抜きはやはりサッカー。週末は日本人アマチュアサッカーチーム「FCジャパン」の練習や試合に参加して汗を流している。

 今後の展望を聞くと「5年以内に、意味があると思える結果を出したいです。その後は、アメリカでもヨーロッパでも、自分の興味のある研究ができる環境にいられればいいですね」と涼しい顔で答えた。


1回でだめなら、100回挑戦

アルバート・アインシュタイン医科大学勤務 石上泉さん



兵庫県出身。兵庫県立大学理学部卒業後、同大学大学院修士課程および生命理学研究科博士課程を修了。理学博士。2012年 4月からアルバート・アインシュタイン医科大学に勤務。「科学をもっと身近に感じてほしい」と、一般向けの科学セミナーの企画運営に携わっている。


レーザー光を利用するタンパク質構造解析装置を調整する石上さん。タンパク質の準備から装置の配置、データ測定と記録、解析まで全て1人で行う
 「レーザーがきれいなんですよ」と、自ら組み立てた実験装置を見せてくれたのは、アルバート・アインシュタイン医科大学で、タンパク質の構造解析に取り組む石上泉さん(33)。自作のタンパク質溶液にレーザーを照射し、光の変化を解析するのだという。

 人間の体には何万種類というタンパク質があり、互いに関係し合って生命活動を支えている。顕微鏡でも見えない小さなタンパク質の形と機能を解き明かすのが、石上さんの研究だ。先天性疾患や病気の治療法開発に役立つ可能性があるが、日々の実験がそれに直結するわけではない。実験は忍耐と体力勝負。データをうまく測定できず徹夜することもあるが、「分からないことがあるからこそ楽しい」と笑う。

 
米国初の快挙を達成

 進路を決めたのは、大学3年生のとき。大型レーザー施設で、実験を見学したのがきっかけだ。「いろいろな色のレーザーが飛び交っていて、ものすごくきれいだったんです。タンパク質の話も面白くて、楽しそうだな」と、興味を引かれた。

 「やり始めると、周りが見えなくなるタイプ。(疑問が解けるまで)意地になって、とことんやっちゃう」研究に没頭して就職活動もしなかったが、データ測定を手伝ったアメリカの研究者に認められ、その人の紹介で、現在のデニス・L・ルソー教授の研究室に入ることが決まった。

 同教授は、タンパク質構造解析の大御所。最初に与えられた課題は、あるタンパク質の結晶を作ることだった。その方法は日本で確立されていたが、国外での成功例はまだなかった。石上さんは1年後に成功。日本以外でこの結晶を作れるのは、今も同教授の研究室だけだという。

 「みんなから無理だと言われたけれど、絶対できるという直感がありました。何でもそうですが、1回やってあかんかったら、100回やればいいって思うんです!」

 現在扱っているのは、呼吸によって取り入れた酸素をエネルギーに変えるために重要な、チトクロムC酸化酵素というタンパク質。食肉処理場から人間の頭ほどもある牛の心臓を調達し、ミンチにするところから手掛け、精製を繰り返して作る。丸4日かかる「タフな作業」だ。

 当面の目標は、X線結晶構造解析という手法を改良すること。スタンフォード大学と協力して取り組んでおり、実現すれば応用範囲が格段に広がる画期的成果となる。
 

女子トークで気分転換
 
 婚約者もニューヨーク市内の別の研究所に勤務する日本人研究者。実験で使うレーザーの話で意気投合し、付き合い始めた。忙しい時期は寝るためだけに帰宅する日が続く。疲れを癒やしてくれるのがペットの猫。「いっしょに寝てくれるんですよ」と相好を崩す。

 月1回の「女子会」も、欠かせない楽しみの一つ。

 「研究のことはしばし忘れて、普通に女子トークで盛り上がっています!」


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