2019/05/10発行 ジャピオン1017号掲載記事

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生活に欠かせない市民の足
陰で支えるのは日本人

MTAの地下鉄車両の多くは、川崎重工業子会社が製造していることをご存知だろうか。新車両「R211」の受注も決まり、2020~23年に順次納入する。デザインしたのも実は日本人。発案した「アンテナ・デザイン・ニューヨーク」代表、宇田川信学(うだがわ・まさみち)さんに、これまでのアイデアや最新車両の特徴を聞いた。

細かな工夫、随所に

宇田川さんが00年にデザインした川重製「R142A」 「R143」「R160」は4番や5番、7番、EやF、J、Lラインなどを走る。きっと乗ったことがあるだろう。随所に工夫や思いが詰まっている。

例えば色合い。地下鉄は暗いイメージを持たれがちだったため、壁は白を基調とし、シートは淡いブルーにするなど、明るい色を押し出した。一方、大勢に踏まれて汚れる床はあえて暗色にし、滑りにくいゴム素材を用いた。壁にも床にも微細な粒子を混ぜ、傷や汚れを目立ちにくくした。車体は傷に強いステンレス製。

ドア付近と座席とは、ひったくり対策の防護バーで隔てられている。バーを斜めにしたのは、真っすぐだとはしごのように見え、「子供がよじ登って遊んだら危ない」との優しさの表れだ。

券売機浸透に腐心

車両デザインに関し、宇田川さんに白羽の矢が立ったのはその前年、1999年に鳴り物入りで導入された自動券売機を手掛けた功績が大きい。今や各駅でおなじみだが、デザインの考案は「非常に難しい作業でした」と振り返る。

飲料の自販機があちこちにある日本とは違うお国柄。「公共空間の機械は壊れている」と疑われていたそうで、券売機が抵抗なく使われるにはどうすべきかと苦心した。自販機のように「先にお金を入れてから商品を選ぶ」スタイルはなじまないと考えた。

試作機で反応を確かめると、案の定「先に支払うなんてイヤ」との声が噴出。同時に用意していた第2案で進めることとなった。すなわち「お店に入り、欲しい物をかごに入れ、最後にお金を払う」方式だ。

この結論に至るまでには、地下鉄の乗客も含め、ニューヨーカーの行動を連日調べた宇田川さんの地道な努力と観察眼があった。

ハード面も工夫が光る。筐体は頑丈さを重視し、やはりステンレス。問題は色付きの箇所。塗装でははがれやすく、プラスチックだとたばこの火のいたずらで溶けてしまう。そこで宇田川さんはホーローを用いる代替案を提示。導入時の艶はいまだ失われていない。

カードや切符の受取口が赤や青、黄、緑と色分けされているのは、タッチパネルと連動して操作しやすくするため。「特に意図していなかったんですが、結果的にカラフルになりました」と笑う。

次世代型

数々の実績を残す宇田川さん。その最新作がR211だ。スムーズな運行の鍵は「増え続ける利用者がいかに効率的に乗り降りできるかだ」と指摘する。駅での停車時間は「Dwell Time」と呼ばれ、その短縮に知恵を絞った。

新車両は、駅に着く少し前にドア付近のLEDが緑色に点滅し、右か左か開く方を知らせる。またドアの両脇に人が立てるスペースを設けた。いずれも円滑な乗降を促すためだ。他にも、防護バーやポールを、弱視の人にも見えやすい黄色にするなど、現行車両との違いが際立つ。

新車両が待たれる一方、今の券売機は4年ほどで姿を消すと見込まれる。非接触型改札への移行に伴い、一新されるためだ。導入後20年がたつ宇田川さん式券売機、本人の心情は「デジタル全盛の現代も使われ続け、うれしい」。次世代にもその知恵や理念は引き継がれるだろう。

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新車両のR211。Ⓐなど行き先を示す文字はフルカラーデジタルに進化

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R142A。黒っぽい床には細かな粒子を混ぜ、汚れをカモフラージュ。防護柵は斜めに

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赤、青、黄、緑とカラフルな券売機には工夫が満載

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新車両は開く方が緑に光る。黄色いバーも印象的

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宇田川信学さん
千葉大工業意匠学科卒、Cranbrook Academy of Art大学院修了。米アップルコンピュータ勤務などを経て独立。東京出身
Antenna Design New York Inc.
antennadesign.com


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