

がむしゃらにがんばっているからこそ、泣きたくなるときがある。涙があふれそうになったら、たまには無理をしないで、思いっきり泣いてみませんか?
摩天楼やイーストリバーを眼下に望むトラムが9月始め、約半年ぶりに再開した。人気の少ない時間なら結構泣けるこのスポットで、「言霊屋(ことだまや)」として活動中のいたるさんに話を聞いた。
とある9月の午後、60ストリートの2アベニューからトラムに乗り込んだ。静かに上昇し、マンハッタンのビルの谷間を走る車が小さくなる。いつもとは違った街の光景が眼下に広がった。雨に濡れた街並を見つめながら、いたるさんはしみじみと語り始めた。街を見下ろすと、万感こみ上げ、涙が出ることもあるという。いたるさんは、東京ではコピー機等を販売する会社の取締役部長。21歳で営業職につき、7年間がむしゃらに働いた。
「朝8時から夜中の2時まで働いていた頃もあります。飛び込みの必死のセールスを煙たがられ、コーヒーをかけられたり、名刺を破られたこともありましたね」
28歳で友人2人と共に会社を設立したが、順風満帆とはいかなかった。
「新人を募集しても次々に辞めていくんです。最初はそんな人たちを、ドロップアウトという目で見ていましたが、父の死などを契機に、自分と会社のことしか考えていなかった自分に気付くようになったんです」
いたるさんは、仕事で悩んでいる社員たちを元気付けたいと思い、自分の気持ちを言葉にして人に渡すようになった。仕事の後、路上で詩を描き始めると、悩みを抱えている人たちが大勢いることも知った。現在も仕事の傍ら、人の心に響けと製作を続けている。
「泣けば忘れられることもあります。その涙は必ず明日の笑顔になります」

いたるさんが読者に贈る言葉。
セント・トーマス教会
マンハッタンの53ストリートにあるセント・トーマス教会。5アベニューに面した階段を上がり、ドアを開けると、中は空気が止まったような静寂に満たされていた。誰もいない平日の午後3時、ほのかに暖かみのある照明が、荘厳な教会内を照らし、おのずと厳粛な気持ちになる。外のミッドタウンの喧噪が嘘のような別世界だ。後から入って来たカップルが、長椅子に座り、静かな時を過ごしている。一人で入って来た中年の女性は、いつまでも祈りを捧げていた。1826年に建てられた歴史的建築物の穏やかな空気に抱かれると、張り詰めていた気持ちが安らぎ、不思議と涙もすっと出てくる。ニューヨークのど真ん中にある聖地といったところだ。
バッテリーパーク
夕陽の沈んだハドソン川河口に向かうと、目の前には自由の女神が掲げるトーチが輝いている。右手対岸には、ニュージャージー州のビル群の夜景が美しい。時折、上空を飛行機が点滅しながら過ぎ去っていく。この時期、夜7時も過ぎるとバッテリーパークの人影はまばら。昼間の活気を失ったウォール街のビル群を背にしたベンチでくつろぐカップル数組のほかは、釣りを楽しむ人の姿も。犬の散歩をする人、サイクリングやジョギングをする人が時折通り過ぎて行く。ゆっくりと横切る観光船の灯りを見つめ、波が防波堤に打ち寄せる音を聞きながら涙を流せば、頬をなでる海風が涙をやさしくぬぐってくれる。寒くなる前の今がチャンスの号泣スポットといえよう。
地下鉄7番ライン
タイムズスクエア駅からフラッシング駅まで、約40分の地下鉄7番ライン。イーストリバーをくぐってクイーンズに渡ると地上に出る。マンハッタンの摩天楼を一望しながら、電車は次第に地上から離れ、高く上がってゆく。クイーンズボロー・ブリッジを横目にマンハッタンを後にして電車に揺られていると、車窓からは国際色豊かなスペイン語や韓国語の看板が見えてくる。外を眺めながらのちょっとした小旅行だ。高架線を走るので、クイーンズを遠くまで見渡すことができて開放感は抜群。電車に揺られながら考え事にふけるのも心地良く、一人泣きも可能。ただし、夕刻はマンハッタンのビル群のシルエットが美しいが、乗客が多いので号泣には不向き。
スタテンアイランド・フェリー
24時間、無料で乗船できるスタテンアイランド往きのフェリー。大勢で乗ってくる観光客のほとんどは、眺めの良い2階のデッキに上がるため、1階には乗客が少ない。1階の両先端にある開口部は、一人で海を眺めるのにちょうど良い「隠れ泣き」スポット。窓がないので海風に吹かれながら、船に当たる波の音や、しぶきを感じられる。ここなら、少しくらい声をあげて泣いても、波音がかき消してくれる。午後8時を過ぎると、乗客は俄然少なくなるので、船の揺れに身を任せ、マンハッタンやニュージャージーの美しい夜景を眺めながら、一人の時間を堪能できるだろう。30分間の乗船でもの足りなかったら、往復も可。夜中でも船の乗務員が船内を見回っているので安心だ。

バッテリーパーク

地下鉄7番ライン

スタテンアイランド・フェリー

