

秋。家族と友達とビーチへキャンプへ、にぎやかに出かける夏は終わった。静かな秋には思いついたら一人でふらり、計画を立てない旅で季節を味わいたい──ライター奥窪優木がつづる、モントリオール行きアムトラックの旅日記。
ペンステーション。汽笛を響かせながら列車が進む暗い空洞は、まるで日常からの脱出口のようだ。駅で乗車券を購入し、乗り込んで約10分。モントリオール行きのアムトラックは、検札が始まるのと同時にホームを滑り出した。
トンネルを抜けると、左手にハドソン川が現れた。北へ向かうこの列車は、アルバニーまでの間をハドソン川と並走する。線路から水までが数メートルというところもあり、まるで水上を走っているかのようだ。朝日を反射する水面がまぶしい。
目を開けると、ミレーの絵のような牧草地が広がっていた。早起きのせいか、コトンコトンという列車の振動につられてまどろんでいたようだ。深まった木立の紅葉に、遠くへ来たことを実感する。
目覚ましのコーヒーを求め、カフェ・カーへ向かう。静かに語り合う老夫婦、読書にふける青年、車窓からの景色に見入る女性。そこは、それぞれが思い思いの時間を過ごしながら、一方では同じ目的地を共有しているという不思議な空間なのだった。そんな一人旅の身には心地よい無言のうちの一体感をひとしきり味わっていると、国境地帯に入ったとアナウンスがあった。
出国審査は意外とスムーズに進む。10分ほど経つと、今度はカナダの国境警察が乗り込んできた。半袖の夏用制服だった米国警察とは対照的に、彼らはコートに身を包み、さらに「ボンジュール」とフランス語の挨拶。異国に入ったのだ。
外は随分と薄暗くなっていた。見通しの悪くなった外の景色の代わりに、車窓に映るのは自分の顔。こんなにまじまじと自分の顔を見つめるのも久しぶりだなぁ、などとセンチなことを思わせるのは、旅愁というやつだろうか。
そのうちに、乗客たちが一斉に右側の車窓へと張り付きはじめた。暗闇の向こうにほのかに赤い光が見える。大冒険家リンドバーグの言葉を借り「車輪よ、汽笛よ、あれがモントリオールの灯だ」と心の中で呟いた。出発から約10時間、列車はガレ・セントラーレ(セントラル駅)に到着した。

当日券で気軽に乗って、遠くまで行けるのがアムトラックの魅力。とある知らない駅で、気ままに途中下車してみたくなる。.

カフェ・カーで目覚ましのコーヒーを。思い思いにくつろぐ乗客たちも、目的地は一緒だ。
モントリオールの朝。一晩眠って旅の疲れを癒した後は、早くから外に出かけてみた。香ばしい匂いにつられて買ったフレンチ・バゲットを小脇に抱えて、朝のセント・ローレンス川へ。川べりのコミューン通りには、フランスの田舎の民家を思わせる石造りの建物が並ぶ。窓に花が飾られた小道を散策していると、ノートルダム大聖堂の前に出た。パイプオルガンの音色に誘われ中へ。ちょうど行われていた、ささやくようなフランス語のミサを見学する。
ランチは生ハムとチーズのクレープで済ませ、午後はサン・ポール通りのギャラリーめぐり。途中のカフェで、カフェ・アプレミディとしゃれこむ。なおも歩いていたら、小雨がぱらついてきたので地下へ潜る。迷路のように入り組んだ地下街を散策するうち、迷ってしまったので地上へ出ると、雨は止んでいた。そこで見つけたフレンチ・レストランで夕食。満腹になったところで、夜の散歩へ出る。
フランス語のアナウンスにドキドキしながら地下鉄に乗ったが、親切な若者たちに英語で助けられ、カルティエ・ラタンへ無事到着。別れ際、彼らにすすめられるままに、名物の地ビールを飲み歩く。何種類試したのか、気持ちよく酔ってきたところで再び旧市街へ。ジャック・カルティエ広場を下り、再び川べりへと向かって、人気の少なくなった路地を一人そぞろ歩く。濡れた石畳の小道をオレンジ色の街灯が照らす光景に、ただ溜め息が漏れる。旅人の身も心も酔わせながら、モントリオールの夜は更けていった。

豪華絢爛でいて荘厳な雰囲気の漂う、ノートルダム大聖堂。

創業半世紀のレストラン。本格フランス料理を、30ドル程度から気軽に楽しめる。

カルティエ・ラタンのブリューワリーで、地ビール4種類のサンプルメニュー(6ドル45セント)にトライ。

