

食の街ニューヨーク。ちょっと行くのを躊躇してしまうようなエリアにも、おいしいものがたくさんある。今週は、勇敢な食いしん坊のためのちょっぴりデンジャラスなグルメ探索。
「空港周辺はヤバイ」という噂も何のその。JFK空港の南側、ジャマイカ湾をはるばる渡ったところに位置する地下鉄Aトレイン終着駅から更にバスに乗り継ぎ、片道1時間半、ロングアイランドの知る人ぞ知る激うまコーシャー・デリを目指す。
銀色の腹を見せながら頭上をかすめる飛行機の轟音。夏を過ぎたファー・ロッカウェーの日曜日に吹く潮風には、そこはかとないキナ臭さが漂う。誰もいないバス停に立つこと30分以上、陽はすでに傾きはじめていた。「行きはよいよい帰りは怖い…」──口をついて出たメロディーに、自嘲気味になったところにバスN31はやって来た。
ニューヨーク市を越境してナッソー郡に入ると、心細さも本格化してくる。バスの中も窓の外も、女性や子供の姿が無いのが不思議だ。バス停の場所を尋ねた駅員の「テイク・ケア、グッドラック」という言葉が気になってきた。何を気をつけろというのか、幸運を祈られたのは何故なんだ…。疑心暗鬼の塊になった頃、車窓の風景が1本の通りを隔てて一変した。
洒脱たブラウンストーンに挟まれた通りを歩く、ヤマカをかぶった人々。コーシャーチーズ屋、コーシャー・ワイン屋、果てはコーシャー・チャイニーズまで並ぶ街の活気に「地獄にモーゼ」とばかり、一気に緊張が解きほぐれていくのを感じる。
ベーグル屋の前でバスを降り、目的のデリ、キング・デイビッドに無事到達。安堵による空腹を迎えてくれたのは、挽肉にツナギとしてごはんが入った名物のスタッフド・キャベツだ。トマトソースに干しぶどうの甘味を生かした優しい味に心癒される。そして付け合わせには、エッグ・バーリィーを。一見穀物のようだが、卵と小麦粉で作ったパスタの一種だ。素朴な小麦の香りと、プチプチした食感がクセになる。いずれもコーシャーの伝統が生きた美味しさに「これぞ命賭すに足る味」などと達成感に浸っていたら、お店の人がLIRRのシダーハースト駅がすぐ近くにあることを教えてくれた。1時間に1本しかないが、マンハッタン間を楽々45分だという。なんとも「ビビリ損」な1日の終わりであった。

King David Delicatessen

低所得者用アパート群を抜けると、突然こんな瀟洒なシダーハーストの街並みが。
FLATLANDS
イースト・フラットブッシュにある地下鉄2および5トレインの終着、ブルックリン・カレッジ駅を抜け、さらにバスB41に乗って揺られることしばし。ブルックリン南東の最果ての地、フラットランズはイタリア系移民の多い街だ。かつてジョン・ゴッチ率いるガンビーノ一家のシマだったというこの地は、たびたび血なまぐさい抗争の舞台となったことでも知られている。しかし今では、「銃声の音を聞くのはまれ」(住民談)ということなので一安心(?)だ。
そんな街で50年以上も続く老舗イタリア食材店ランディーズには、オリジナルのチーズやハムといった高級食材や輸入品のパスタなど、普段なかなか手に入らない商品が目白押しで、様々な人種の客で賑わっている。
この店の創業以来から続いているロングセラーの商品が、イタリアのおふくろの味、ライスボール。オーナーによると、イタリア系移民の家ではどこでも食べられている、典型的な家庭料理なのだという。味は、ちょうどコロッケの中にドリアを入れたような感じで、日本人の舌にも何故か懐かしい。イートインはできないが、マフィアの大物が味わったであろう揚げたてほやほやのライスボールを食べながら歩けば、帰り道はもう怖くない?
絶品ジャマイカンに決死で挑め!
EAST FLATBUSH
カリビアン系移民が多く集まるイースト・フラットブッシュに、本格ジャマイカ料理を気軽に味わえるビュッフェ・レストランがある。2005年度統計データによると、殺人の被害者となる危険性が米国内平均の1・48倍、強盗の被害者と危険性に至っては3・65倍という不名誉な実績を誇る街だが、このお店は2トレインWinthrop駅から20メートルほどの距離なので、全力ダッシュすれば、それらのリスクはかなり軽減されるはず…。息が上がるのをこらえながら扉を開けるとアジア人の客がよほど珍しいのか、店員や客全員から一斉に熱いまなざしを浴びてしまった。しかしこちらに敵意が無いことを笑顔でアピールすると、店員がカウンターに並んだ20種類ものメニューの一つひとつを親切に説明してくれた。
試したのはゴートとジャークチキンの2種類のカレー。どちらも結構辛いが、ジャガイモやニンジンの甘味がしっかり出ていてかなりウマイ。付け合わせに選んだ蒸しバナナや、歯ごたえのいいキャベツや大根の葉の茹で野菜など、どれも大満足の味。値段は量り売りでパウンドあたり3ドル99セント。お腹いっぱい食べても約7ドル前後といったところだ。近所に住みたいかは別として、こんな店近所にぜひ一軒欲しい!
豚足ビール煮に運命を投じよ!
MASPETH
LIE(ロングアイランド・エクスプレスウェー)を走ればマンハッタンから10分ほどという距離にありながら、地下鉄の駅が全く存在しないため、文字通り陸の孤島となっている倉庫街マスペス。R・Vトレインのグランドアベニュー駅からバスQ58・59に乗り継いで約10分、おそらく地元民以外は近寄らないであろうこの街に降り立つと、どこか排他的な風景が広がる。LIEを走る大型トラックのクラクションも、ややけば立って聞こえるのは気のせいか。
反面、交通の便の悪さから地元でことを済ますという住民の事情からなのか、目抜き通りのグランドアベニュー沿いには、彼らのエスニシティーを反映したベトナム料理やコロンビア料理など、幅広いジャンルの食が連なる。
中でもこのポーリッシュ・レストランは、よそ者を笑顔で迎えてくれた。ウェートレスのおすすめに従って注文したのは、ブタの後ろ足を黒ビールで蒸し煮にしたPig Hock Baked in Beer。出てきた瞬間、その巨大さに圧倒されるも、意外と淡白な肉にビールの香りがアクセントなって、あれよあれよという間に完食。コラーゲンもたっぷりで美容にも良さそうだ。その上、サイドのなんの変哲も無いマッシュポテトが隠れた主役級の美味だった。

カラフルなジャマイカ料理の数々。

Pig Hock Baked in Beer 7ドル95セント(ランチ)

思いもかけず国際的なグランドアベニュー。

