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2006/09/01発行 ジャピオン掲載記事

そば再発見
そうは言っても、まずは〝日本のそば〟
古くは縄文時代から栽培され、江戸時代に庶民の間に広がったと言われる「そば」。落語のネタにもなり、ふと「そば、食べたいっ!」と思うことがある人も多いだろう。しかし、そばを食材として使うのは日本だけじゃない。お隣の韓国をはじめ、ロシアやヨーロッパ各地にも「そば料理」がある。そこで、今回は世界の食文化が交差するニューヨークという窓を通して、そばを再発見していく。
そば日本
19 W 52nd St.
TEL: 212-489-2525

倉岡伸欣さん 「そば日本」オーナー
そばの味にこだわるあまりカナダにそば栽培農場まで作ってしまった情熱家。冷凍そばの開発にも成功して特許をとるなど、常に探求心を忘れない。

 ニューヨーカーに本格的な日本そばを提供する「そば日本」のオーナー、倉岡伸欣さんに、素材、味、食べ方について聞いた。

──「黒」と「白」そばの違いは?

倉岡 そばの色はその挽き加減の違いによります。黒っぽいのは皮の方まで挽いたもの。白っぽいのはそばの実の中の白い部分を挽いたもの。真ん中だけ使うのが、いわゆる更科です。一般的に皮の方へ行くほど「そば風味」が強くなりますね。

──そばの実にお国柄はある?
倉岡 国によって全然違いますよ。日本の中でも地方によっていろいろありますしね。例えば、北海道のはコシがあっておいしいんですが、苦い。信州産は甘いけれど、コシがない。私は最初は出雲のそばを使っていたのですが、18年前からは独自にカナダで栽培しています。北海道のそばの種をカナダに植え始めましたが、おいしいのが穫れるようになるまでは時間がかかりました。今は、北海道とカナダのそばをうまい具合にかけあわせようとしているのですが、これがなかなか難しいんですよ。

──理想のそば粉の配合は?
倉岡 ウチは今82%そば粉です。それ以上入れるとどうしてもぼそぼそしてしまいます。でも、そばの香りが強いほど食をそそりますよね。ウチでは朝と昼の2回そばを打ちますが、朝打ったものは半日もすると風味が飛んでしまうんです。それほどそばの香りは微かなものなんです。

──のど越しを楽しむよりも、しっかりと味を噛みしめて食べるのは、粋じゃないですよね?
倉岡 自分の好きなように食べればいいと思うんですよ。食べ方は三者三様。よく究極の何かとか、わさびは麺にのせてからつゆにつけるとか、つゆに全部薬味を入れてしまうのがいいとか、麺は半分だけつゆにつけるとか…、いろいろ言う人がいますが、そんなのは事大主義。そばはもっと単純なんです。

 ニューヨークタイムズのフードライターのエリック・アシモフが「つゆに薬味を入れてもよいが、私は敢えて入れずに、そばにつゆをつけて一気にすすりこむ。このほうが、そばの命である歯ごたえとのど越しが楽しめる。この清涼感が良い」と書いていました。薬味は香りが強いですから、本当にそばを味わいたかったら、この方法がいいかもしれません。そばには味がありますから、しっかり噛みしめて食べるのもいいと思いますよ。とにかく自由に食べればいいんですよ。




■日本のそば料理、あれこれ
〝かけ〟や〝盛り〟以外でもそばの旨さが味わえる「そば日本」の料理を倉岡さんに紹介してもらった。「そばの風味を楽しむには、どの料理も出されたらすぐに食べること」と倉岡さん。

・揚げ出しそば豆腐
とろりと粘るタレと、滑らかなそば豆腐の食感のハーモニーを楽しむ一品。そば豆腐が舌の上でさらりと溶けていく瞬間は、ふつうの揚げ出し豆腐では味わえない醍醐味。

・そばがき団子/甘味そばがき団子
そば粉の舌触りと独特の風味に、食べる直前におろす新鮮な本ワサビの香りが花を添える。一口食べて目を閉じると日本の山里の風景が浮かんでくるよう。一方、黒蜜ときな粉で味付けしたそばがき団子のデザートには、わらび餅とはまた違った味わいが。

揚げ出しそば豆腐

そばがき団子

甘味そばがき団子

ニューヨークで食べる世界のそば料理


イタリア北部バルテリーナ地方の平たい麺

 そばはイタリア語でグラーノ・サラチェーノと呼ばれ、ロンバルディア州、エミリア・ロマーナ州をはじめとした北部で穫れる。特に、イタリアとスイスの国境にあり、高級リゾートのコモ湖にも近いバルテリーナ地方では、おいしいそばが育ち、パスタをはじめ、ポレンタ、スープの中にもそば粉を使った独特の料理があるという。

 そのイタリアそば郷土料理のひとつ「ピッツォケリ・バルテリネシ」がアルファベット・シティーの「パプリカ」で食べられる。バルテリーナ出身でオーナー・シェフのエジディオ・ドナグランディさんはこの平たいきしめん風のパスタを2日おきに打つ。生パスタと聞くともちっとした食感を期待するが、これはしっかりした歯ごたえがあり、そば粉の風味が生きた素朴な味わい。タマネギ、ニンニク、キャベツ、じゃがいもなどの野菜と一緒に麺を煮込んで、最後にチーズを絡める。「田舎料理ですよ」とエジディオさん。確かに洗練された味というよりも、大地の恵みを噛みしめる感じで、美味だ。味の決め手は、これまた地元の特産ビット・チーズという牛のチーズとそばの相性。「ここではバーモント産のそばを使っていますが、小粒でマイルド。バルテリーナ産のそばの実はもっと大粒で風味が強いんだ」と懐かしそうに話すエジディオさん。ニューヨークにイタリアン・レストランは数あれど、本格的なイタリアそば麺が味わえるのはここだけ。ぜひご賞味あれ。


旧ソ連圏や東欧のそば料理は家庭の味

 栄養分の少ない痩せた大地でもそばはよく育つため、ロシアやウクライナなどの旧ソ連圏からポーランドなどの東欧にかけた地方ではそばを食材としてよく利用する。最も有名なのがそば粉のパンケーキ「ブリニ」。キャビアやイクラをのせたり、包んだりして食べる。そばの風味がキャビアやイクラの主張する味に負けず劣らず、絶妙のペアリング。海の幸と山の幸の味が見事に調和する。

 このブリニより薄いクレープ状態のものが「ブリンツィズ」。果物とサワークリームを巻いて食べるデザート感覚が人気だ。ニューヨークで食べられるブリンツィズはそば粉よりも小麦粉を使ったものが多いが、サワークリームと合わせるならそば粉で作った方が断然おいしい。

 一方、そばの実を炊いた「カーシャ」は、これらの地方に古くから伝わる家庭料理。本来は貧しい農民たちの食事だったが、繊維質が豊富で低カロリー、栄養価も高いとあり、そばを使ったカーシャは今ヘルシー志向の人たちの間で俄然注目されている。ニューヨークにあるロシア、ウクライナ、ポーランド系のレストランでも、マッシュポテトやインゲン豆と並ぶ定番のつけあわせになっている。ボルシチと一緒に食べたり、煮込み料理のグレービー・ソースにつけて食べると旨みが増すのでおすすめ。


ブルターニュ地方のそば粉のパンケーキ

 フランス北西部ブルターニュ地方。ここに伝わるのがそば粉のパンケーキ「ガレット」。この地域は土地が痩せていて寒冷のため小麦生産に適さず、そばが常食とされていた。そば粥やそばがきにして食べていたものを偶然焼けた石の上に落としたところからガレットが誕生。クレープにしてチーズやハム、卵やサラダをのせて主菜にしたり、ジャムやフルーツと一緒に調理してデザートとしても食べられる。


朝鮮半島に伝わるコシのあるネンミョン

 夏になるとキンキンに冷えたネンミョン(冷麺)が食べたくなるという人もいるだろう。このネンミョンもそば麺。もともとは朝鮮半島北部の食べ物で、極寒の冬に外で冷やしておいたスープを麺にかけて、ぬくぬくしたオンドル部屋で食べたというオツな冬の料理だ。日本のそばとの違いは、くず粉をまぜてコシを出すところ。ツルツルとした喉越しと、そうめんのように細い麺の舌触りがくせになる。

旧ソ連圏や東欧のそば料理は家庭の味

ブルターニュ地方のそば粉のパンケーキ

朝鮮半島に伝わるコシのあるネンミョン

そば、野菜、チーズが絡むずっしりした味にセージの香りが爽やかさを。「パプリカ」では、これをお目当てに来るお客も多いという
Paprika
110 St. Marks Pl.
(bet 1st & Ave. A)
TEL: 212-677-6563
www.paprikarestaurant.com




NYジャピオン369号(September 1,2006発行号)より記事・写真抜粋
※記載されている情報は変更されている場合があります。
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