2017/01/13発行 ジャピオン898号掲載記事

NYジャピオン特別インタビュー
「沈黙」出演のイッセー尾形
俳優は僕にふさわしい仕事

 マーティン・スコセッシ監督が28年間構想し、ようやく実現させた、遠藤周作の原作の映画化「沈黙」が現在公開している。出演したイッセー尾形に、作品について、役へのこだわりについて聞いた。

ーー温和な表情で、ロドリゲス司祭を極限まで追い詰める井上筑後守の役はどのように準備を?

 2009年に行われたオーディションの際に、ロドリゲスと、つばぜりあいをして、棄教を説得するシーンの台本をいただいたのですが、当初から悪役っぽく演じるのは絶対やめようと思いました。役が膨らまないし、表面的な悪役を僕がやってもパロディーにしかならないだろうと。むしろ優しく、心に響くように説得してみようというアイデアを基に、台本の一行一行を丁寧に組み立てました。それを監督さんの前でやったら、「尾形で行こう」となり、この作り方で間違いなかったんだと思いました。

ーー記者会見では(インタビュー前に実施)、実在の人物である井上の背景を調べ、役を膨らませたともおっしゃっていましたね。

 オーディションから撮影まで5年ぐらいあって、「もう(映画化は)ないかなー」と思いながら待ちました。そして「行く」となった段階で、歴史の本や遠藤周作さんの戯曲「黄金の国」(「沈黙」以前の物語が描かれている)を見ました。井上が実際に作った地図のコピーも見て、「本当はこういう仕事をしてたんだな」と分かったり。聖書を買って読んでキリスト教についても勉強しました。

 いろいろなディテールは膨らませましたが、基本は最初に作ったものです。(調べたことは)カメラの前に立つときのバックボーンと言いますか、「地図を作ってたんだ」「世界のことを科学的に理知的に知っている」「人を殺めることに無縁の男なんだ」「けれどここにいる」という井上を演じる上での支えになりましたね。

 あと、窪塚(洋介)くんが演じるキチジローの目が真っすぐでね。一方、井上は救われない、複雑な男ですから、明らかに違う目をしようと思いました。

 いくつもの仮面をかぶって生きている男です。そのうち仮面はどれなのか、本当の顔はどれなのか、もうそんなことを分からなくてもいいぐらいに手を根元まで真っ赤な血で染めている。でもね、それは相手に対する仮面であると同時に、自分の心の奥底を見ないための仮面でもあるわけです。

ーー舞台は島原の乱後の日本ですが同時に、現代にも通じるテーマも多いと感じました。

 まさしくそうですよね。いろいろなパートがジグソーパズルのようにつながって、この「沈黙」という巨大な映画ができるんですね。

 死んだら、食べ物も税金もないハッピーな世界、そんなおとぎ話のような天国を信じる彼らの姿は、一見短絡的にも見えますが、残酷な日常と、そのおとぎ話のような天国というカップリングでキリスト教を理解している。彼らは、そこにしがみつくしかないわけです。これは現代どこにでもある。いつだって信仰とまでは言えないものにあふれ、皆しがみついています。

 そして、一番罪を犯したと思っているキチジローを誰が救えるのかと、そもそもキチジローは救われたいのかと。非常にナンセンスな話ですが、自分たちが作ったナンセンスだから、そこからは誰も逃れられない。現代にも脈々とある問い掛けだと思います。

ーースコセッシ監督とのお仕事はいかがでしたか?

 愛情深くて、信頼してくれて、本当にありがたかったです。「まずやってごらん」と、そして「面白かったよ」と。「じゃあもういっちょいこうか」と。100%信頼してくれて自由にさせてくれる。そうすると演者は「あれもやってみよう」と思いつくんですよ。どのシーンもその連続でした。若い頃、役者の道に入って、他人を演じる経験をしたとき、自分から離れて自由になった気がしたんです。その気持ちを沸々と思い出しました。俳優は僕にとってふさわしい仕事なんだと60歳にして改めて思いました。それは本当に幸せなことでした。

ーー今回この作品についての感想は?

 先日、ロサンゼルスで初めて観て以来ずーっと感想を探してたんです。感動するんです、でも僕は信仰なんてないし、救いといっても、誰も救ったこともないしなとか、感動に言葉がなかなか当てはまらないんですよ。それで昨日ニューヨークに来て、この映画のことを風呂の中で考えていたら、ポ~ンと「この映画はお前を見捨てない、必ずここにいる」と言葉が出てきたんです。

 これから、いろんなつらいことも、大変なことも人生にあると思うけれども、どんなことになっても、孤独にならない人はいたり、友人はいたりするだろうけども、映画がそばにいるっていう感覚は初めての経験だと思う。映画って普通、商品じゃないですか。ただ観るだけの。でもそうじゃない、それを越えたものがあった。そういう意味で、こんな映画は今までにないですね。

ーー読者に向けてメッセージをいただけますか?

 海外にいらっしゃる方は特に日本を意識する瞬間が多かったり、なぜここにいるんだろうとか、ふと考える時間もあるかと思うんですね。それはきっと孤独なときだと思うんです。そんなときにこそ、この映画はふっとあなたの隣にやってくる。この映画はアドバイスはしません、ただそばにいるだけです。いるだけのことの力、優しい力、それを僕もこれから体験したいですし、その体験を皆さんと共有したいです。

イッセー尾形■福岡県出身。1971年から演劇活動を開始。一人芝居の舞台をはじめ、映画、ドラマ、ラジオ、ナレーション、CMなど幅広く活動。スイス・ロカルノ映画祭審査員特別賞受賞作「トニー滝谷」(市川準監督)、「太陽」(アレクサンドル・ソクーロフ監督)などで国際的にも知られる。「沈黙」での井上筑後守役の演技でロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞の次点に選出された。

「Silence(沈黙)」

 遠藤周作の「沈黙」(1966年発表)の映画化。島原の乱の鎮圧後、キリスト教弾圧の渦中にある日本が舞台。イエズス会のフェレイラ司祭が棄教したとの知らせがローマに届に、それを信じられないフェレイラの弟子、ロドリゲスとガルペは真実を求めて、五島列島に潜入する。しばし隠れキリシタンの島民たちに匿われるが、マカオから道案内をしたキチジローの裏切りで、ロドリゲスは長崎奉行所に捕らえられてしまう。棄教を説得する幕府大目付・宗門改役の井上筑後守と対峙しながらも、信仰を貫こうとするロドリゲスの前に、棄教したフェレイラが現れる。

監督=マーティン・スコセッシ、出演=アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバー、イッセー尾形、レアム・ニーソン、塚本晋也ほか

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