2017/05/05発行 ジャピオン914号掲載記事

賢く暮らすための不動産と税金

ニューヨーカーのみならず、世界各国の投資家から注目を浴び続けるニューヨークの不動産。住居として、投資として物件購入を考えている読者も多いのではないだろうか。実は後々「転ばないために」、準備しておくことがある。不動産エージェントの松本哲夫さんと会計士の吉田成巳さんが、不動産、税金、ファイナンスの関係性について語った。

吉田成巳さん自営業を営む両親の影響で16歳から会計・税務を学ぶ。バルーク大学会計学専攻。米国公認会計士(CPA)、税理士(EA)。1979年に設立された原会計事務所を引き継ぎ、原・吉田公認会計士事務所を設立、代表を務める。

松本哲夫さんニューヨーク市最大手不動産会社の一つ、コーコラングループに勤務し、マンハッタン、ブルックリン、クイーンズで年間20件以上の不動産の売却と購入を手掛ける、ニューヨーク州公認不動産エージェント。自身も不動産投資、大家業を行う、当地での不動産のプロフェッショナル。2児の父で、学校事情にも明るい。

——お二人が一緒にセミナーを開くと聞きました。不動産エージェントと会計士がチームになる理由は?

松本 購入・売却の過程で、クライアントが関わるのは不動産エージェントだけではありません。法律や契約書に関しては弁護士を雇い、銀行からモーゲージ(住宅ローン)を借りるというように、その過程では多くの専門家が関わることになります。

その中で会計士の存在が大きいのは、不動産購入・売却には必ず自身の資産状況(ポートフォリオ)や人生設計を踏まえた資産運用(ファイナンシャルプランニング)が関係してくるからです。

私は不動産売買のプロではありますが、不動産の購入・売却により、その人の資産状況がどう変わるのか、資産運用にどう影響するのかは、個々でも違いますから、ご自身で会計士に相談し、理解していただく必要がある。ですが実はそこを理解していない方が多いわけです。

吉田 タックスリターンの業務が終わったところですが、今年は特に不動産に関する相談が多く、不動産の需要が高まっていると感じています。

「なぜこんなに税金を払うのか」という話から、「不動産購入が得策だと聞いた」と聞かれます。中には実際に購入を検討しているという方もいましたが、「不動産を買うと節税につながる」とは聞いて知っていても、なぜなのかを知らず、ご自身の資産状況や長期的な資産運用の視点を持っていない方が多いですね。

松本 同じですね。購入の相談の際に、「モーゲージ(住宅ローン)は多く借りた方が税対策になりますよね」と聞かれるのですが、得か損は個々の資産状況が関係するので、まず会計士に相談し、自身の状況を把握した上でないとわれわれには答えが出せない。

実はアメリカ人は幼い頃からお金に関する知識や知恵を親から教えられ、物件を購入する際に資産状況や資産運用が関係することをよく理解していますが、日本人はその部分の理解が弱い気がします。

各専門家に相談は常識

——日本人は、それぞれの専門家と相談しながら前に進むという考えがあまりないように思います。

松本 僕自身、当初はもちろん同じで、長年住んで苦い経験をしつつ学びました。そして知らないことでいかに損をしていたかと思うのです。だからこそ、同じように「転んで」ほしくない。

さらにわれわれは二人とも米系の企業での勤務経験があり、地元の人がどう考え、何を実践し、何が常識なのかを把握しているので、この知恵をぜひ使ってほしい。そこが一番気付いてほしいポイントなんです。

吉田 知らないと遠回りになりますし、知らずにやったことは取り戻せませんから、損をするケースも多いと思います。特にタックスリターンの際に「そうなんだ」と気付くことが多いですね。

会社員としての収入があり、投資物件から家賃収入も得ている方がいました。投資物件の場合、家賃収入を得ても、修理費や減価償却でほとんどの場合、損出が出ます。その損出を会社からの収入と相殺し、税金対策のために購入したのですが、会社収入と相殺できるのは2万5000ドルで、会社からの収入が10万ドルを超えると、その額が減り、15万ドルを超えるとゼロになります。その段階になって「なんとかなりませんか」となるわけです。

人生において絶対に避けられないのは死と税金、といわれます。税金は避けられません。

ただし、税金は税法を知り、資産の運用の仕方を工夫することで、払う額を減らすことはできる。長期的な資産運用は、知識を得て、未来を見据えた発想で立てるものです。

松本 相談を受けた際には、時に苦言も呈するので、われわれが悪者になることもありますが、それを含めて、あらゆる可能性を検討した上で、最終的に自分自身で判断することが大切です。

吉田 そうですね。あと何でもそうだと思いますが、バランスが大切です。モーゲージをより多く得るために、手元の現金を全て頭金に回した方がいいのかと質問されることがあります。

もちろん、それで多く借りられることは確かですが、手元に現金がなければ病気になったり、仕事を失って収入が途絶え、モーゲージの返済ができないとなったら意味がない。どうしても、自分だけで考えると、そうした長期的な視点が欠けてしまうんですね。

長期的視野が重要

——長期的にプランを考えるためのポイントは?

吉田 先ほどの例でいうと、収入には働いて得るアーンドインカム、投資や利子、配当金などのポートフォリオインカム、そして不動産の賃貸などで得るパッシブインカムの3種類があります。投資物件での損出はパッシブロスとなり、アーンドインカムとの相殺は限度がありますが、同じカテゴリーのパッシブインカムならば可能です。そして損出は計上を将来に繰り越すことができる。他にも物件売却時にかかる税金は、売却益だけでなく、購入後、例えば5年、10年計上してきた原価償却額も加算する必要がある。こうしたことを後から気付くのではなく、事前に知り、長期的な視野に立って対策が立つのです。

松本 吉田さんの話のように、パッシブ、ポートフォリオによる収入と損失を利用するのは成功している人の常識とも言えますが、不動産はそれを生み出す鍵でもあります。

目に見える不動産を購入したり売却したりする際は、資産状況に与えるインパクトや税金など、見えない部分で何が起こるかを理解し、長期的に対策を立てる必要があります。そうすることでかなり「転ぶ」ことが少なくなるはずです。

ニューヨークにおいては借りる側から所有する側に移行するのは成功への一つの大きなステップ。ただ準備に時間がかかればかかるほど自分が望んだ物件を持つのが難しくなる市場でもあります。知らずに後で後悔するのではなく、今、準備を始めるということがとても重要ななわけです。

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