その11 異文化適応のルール 家族のきづなを強める!

グローバル化の進行に伴い、国境を越えた移動はもはや一部の人の問題ではなくなりました。世界人口の30人に1人が自国以外の場所に暮らす現在、海外で育つ子供たちがどのように異文化を受け入れ、アイデンティティーを確立していくのか、少しお話しします。

異文化で学齢期を過ごす子供を「第三文化の子供たち/Third Culture Kids)と呼びます。彼らは両親の文化(第一文化)と、受け入れ国の文化(第二文化)の二つに適応していく過程で、第三文化と呼ばれる独特のブレンド文化を創造すると言われています。

Where are you from?

東京生まれ、シンガポール育ち、アメリカの大学に通うタロウ君。出会う人に「Where are you from?」と聞かれる度に答えに困ってしまいます。相手は軽い気持ちで聞いているのですが、タロウ君は「今住んでいるアメリカなのか」「育ったシンガポールなのか」「生まれた日本なのか」、さまざまな答えが頭に浮かび考え込んでしまうのです。

日本で生まれ育った人であれば「ジャパン」と即答できます。でも幼い頃から海外で暮らしているタロウ君の場合、日本人であっても、自分は日本に属していると純粋に感じられなくなっているのです。では、タロウ君が生活の大半を過ごしたシンガポール人としてのアイデンティティーを持っているかというと、そうでもありません。シンガポール社会とは密接に接触しながらも、どこかに距離を保っている自分がいます。

独特の世界観に価値

家庭で日本語と日本人的価値観が継承され、学校で外国語と外国的価値観を教え込まれる。

このプロセスを経験した子供は、特定の国に属さない独特な「世界人としてのアイデンティティー」を形成します。

多様な文化や価値観と共生することが求められるこれからの社会において、国境を越えたアイデンティティーを持つ第三文化の子供たちは、文化や国家の架け橋として優れたリーダーとなる素質を秘めています。

高度な言語力、異文化適応力、コミュニケーション力、思考スキル、そして彼らだけが持つ世界観、これらはかけがえのない財産です。

異文化で育つ子供たちが、自分のポテンシャルを活かし、多文化人材である自分をポジティブに受け入れるためには「母文化の土台」を構築することが何よりも重要です。

継承する日本的価値観

子供たちのアイデンティティーを支える日本的価値観は、親子関係を通して子供へと継承されていきます。日本語を習得し、日本人的な所作・作法・気遣いを身に付け、調和を重視する日本的コミュニケーション力を身に付ける。

海外子育て家庭では、日本的価値観を意識した子育ての実践が必要です。日本語の絵本や昔話を読み聞かせる、日本語のわらべ歌を歌いかける、季節の行事や文化風習を家庭で経験させる、そんな配慮をしてください。

学齢期の子供には、武道や太鼓を習わせる、日本のポップカルチャーを紹介する、剣玉やコマ回しなど日本の遊びを経験させるなど、日本人としての自分を意識できる機会を多く与えてください。

家族は心の故郷

海外で育つ子供たちがしばしば直面するアイデンティティー面の不安定さを補うことができるのは家族の存在です。精神的なストレスが多い海外生活を楽しく、前向きな経験にするには、家族が結束し、励まし合い、助け合うことが大切です。

第三文化の子供にとっての故郷は、特定の国や場所ではなく「家族」です。言語と文化の狭間で見失いがちな「自分」を国際社会の中で位置づけ自己実現していく、子供がそのプロセスを可能にできるのは、自分をいつでも受け入れてくれる「家族」という後ろ盾があるからです。