2018/06/01発行 ジャピオン969号掲載記事

スペシャリストに聞く

①日米の雇用の違い

今月のテーマ:労務

文化、習慣、法律も違う海外で暮らす上で頼りになるのはスペシャリスト。日常生活を送る上で必要となる、また気になるテーマについて、さまざまなジャンルのスペシャリストたちに話を聞く。


米国の人材採用の流れや、知っておくべき基本的な情報について専門家に聞いた。ニューヨーク州では、今秋までにセクハラ防止規定の作成、研修の実施が義務付けられるので、早急な対応が必要だ。



日米における雇用関係の違いを踏まえた上で、米国で人材を雇用する際に知っておいた方がよいことを教えてください。

日本では、事業主が従業員を雇用する際、雇用契約を結ぶことが一般的です。

一方、米国では雇用契約書を交わすケースよりも、オファーレター(内定通知書)を介して結ばれる「アットウィル」(任意雇用)という雇用関係が主流です。

オファーレターには、ポジション、雇用開始日、雇用開始時点の給与、雇用関係が「アットウィル」であること、各種条件などが記載される一方、雇用期間に定めは設けません。米国にも雇用契約は存在しますが、 エグゼクティブなどの上位職や特別なプロジェクトの担当者など、一定期間に区切られた明確な達成目標などがある場合に使われるのが一般的です。



「アットウィル」雇用で気を付けることはありますか?

「アットウィル」雇用は、「いつでも、理由の有無にかかわらず、事前の通告なしに、雇用者側からも被雇用者側からも雇用関係を解消できる」と定義されています。ただし、1960年代中盤以降、候補者(応募してきた人)や従業員に対して、人種・肌の色・宗教・性別・出身国・年齢などの特徴をもとに、採用・昇進・昇給・異動・雇用終了などの雇用上の決定をしてはいけないという法律が施行されてきました。広く知られているものに「Title VII of the Civil Rights Act of 1964(公民権法第7編)」があり、雇用上の差別を禁止しています。



差別といえば、昨今、セクシャルハラスメントが大きな問題となっています。

昨年秋のセクハラ告発報道に端を発する「#MeToo」ムーブメントは、この問題に対する米国市民の姿勢をより明確なものにしました。

ソーシャル・ネットワーキング・サービスの普及もあって、以前なら顕在化しにくかった職場でのセクハラについても、被害者が公に声を上げやすい環境が整ってきています。ニューヨーク州では法制面の整備が進んでおり、今秋までに同州内の全ての企業に対して、インターンを含む全従業員を対象としたセクハラ防止研修の実施と、セクハラ防止規定の作成が義務付けられることになります。

また、ニューヨーク市の規定はさらに細かく、従業員数15人以上の企業に対して、新たに人材を雇用した場合、就業開始から90日以内に同研修を実施することを求めています。

セクハラ防止研修が義務化されていない州においても、従業員だけでなく企業を守るために、同研修の定期的な実施は有用です。日本からの赴任者のみの組織であったとしても、万が一、現地の協力会社や取引先、第三者機関との間でセクハラに係るトラブルが起きた場合、現地法が適用されて調査が行われる可能性があるためです。



セクハラ防止研修実施の他に、企業がやっておいた方がいいことはありますか?

第三者通報窓口を設置して、問題が深刻化する前に対応できる体制を整えておくこと、万が一被害の申し立てがあった場合の対応手順を準備しておくこと、などが挙げられます。

そもそも米国は、差別やハラスメントに対して特に敏感です。性別の他にも、人種・肌の色・宗教・出身国・年齢などを理由に差別的な扱いを受けたと相手が感じれば、問題となる可能性があります。米国での実務経験の浅い人には、文化やビジネス慣行に関する研修の受講をお勧めしています。

〈おことわり〉
当行は記事内容に関して一切の責任を負いかねます。詳細は各専門家にご相談ください。

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圓谷(つむらや)吉基さん

東京都世田谷区出身。米国コネティカット州ブリッジポート大学卒業後、情報通信系アウトソーサーの営業支援事業部、通信インフラ販売企業のカスタマー室、米系弁護士事務所のマーケティング部を経て、2017年に来米し現職。日米両方の人事労務管理を受けた経験を生かし、米国で闘う日系企業の活躍をサポートしている。

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