2018/08/17発行 ジャピオン980号掲載記事

この街に住みたい

世界中から人が集まるニューヨークには長い発展の歴史と物語がある。今週から、旧駅舎の取り壊し後、完全なる地下駅になった新ペンステーションの時代を検証する。

ペンステーション❼

 旧ペンステーションの駅舎取り壊しが1963年。かつての雄姿を知るのは、年齢にして今70歳以上の人たちだろうか。若い世代は想像するしかないが、保存されていたなら、グランドセントラル駅よりもさらにスケールの大きい建築空間が、今の地下駅の真上に立っていたのだ。そしてきっと何度か改装が施され、東の「グラセン」、西の「ペンステ」と、市民が世界に誇る良きライバル建築物になっていたに違いない。

かつては神、今はネズミ…

 旧ペンステーションと、1963年以降の完全地下駅を比較し、イエール大学の歴史家ビンセント・スカリーが言った有名な言葉がある。

 「One entered the city like a god; one scuttles in now like a rat」。かつては神のごとくに列車を乗り降りした乗客が、今はまるでネズミのごとく(歴史書「Conquering Gotham; Building Penn Station and Its Tunnels」)。この言葉は、当時の市民感情を如実に代弁していた。地下鉄を利用するわれわれニューヨーカーは、どのみちネズミのごとくかもしれないが、だからこそ旧ペンステーションやグランドセントラル駅のような別世界空間が貴重なのだろう。

旧駅へのノスタルジー

 今の味気ない地下駅はしかし、注意して見ると、あちこちで旧駅へのノスタルジーが漂う。どうやら、駅舎を壊してしまったという当事者らの罪悪感もあるようだ。市民へのせめてもの罪滅ぼしにと、1990年代アムトラック(現在のペンステーション所有企業)、メトロポリタン交通局(MTA)、ニュージャージー交通局が共同で、大規模な改装工事を行っている。

 34ストリートからロングアイランド鉄道(LIRR)への入り口を入り、階段・エスカレーターを下りると長い通路がある。その左右に施された壁彫刻は、旧ペンステーションの建築素材を利用したものだ。

 その通路をまっすぐ行くと正面がLIRRの切符売り場で、向かって左手の壁、トラック20・21の乗降口横にある壁彫刻は、旧駅にあったアドルフ・アレクサンダー・ワインマン作の女性像「Night and Day」を再現している。

 それでも、低い天井を高くできるわけでなし、利用者からの評価は相変わらず低い。「駅全体がまるで地下通路」「魅力がない」と手厳しいことこの上ない。

 さらに残念なことに、ペンステーションと34ストリートのヘラルドスクエア(6アベニュー)をつないでいた地下通路「Gimbels Passageway」が、90年代の改装時に閉鎖されている。長い間通路の安全性が危惧されていたからだが、ネズミのごとくニューヨーカーにとって、この地下通路があればどんなに便利か。 (佐々木香奈)

LIRR34ストリート入り口の長い通路の壁彫刻は、旧ペンステーションの建築素材を使ったアート
旧ペンステーションの象徴的な彫刻「Night and Day」を模した壁彫刻。1990年代の駅改装時に施された
いくら改装し、旧駅をしのぶアートで構内を飾ろうと、低い天井は地下駅の運命。失ったものは取り戻せない

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