2018/03/02発行 ジャピオン956号掲載記事

この街に住みたい

世界中から人が集まるニューヨークには長い発展の歴史と物語がある。今週から8回にわたり、グランドセントラル駅の歴史を振り返る。初回は“グラセン”のオーナーについて。

グランドセントラル駅❶

 連載を始める前に、グランドセントラル駅のツアーに参加した。30年以上ニューヨークに住み、今更ではあったが、驚いたことに、この日の参加者のほとんどが市内在住者。何年住んでも知らないことばかりなりと、参加者全員が実感した1時間半だった。

 ツアーガイドは、市が運営する機関「Municipal Art Society of NY」のボランティア・エデュケーターだ。この日のガイドの第一声は、少なくとも筆者にとっては意外な一言だった。「グランドセントラルは個人所有の不動産です」と。

〝グラセン〟のオーナー?

 思わず「はあ?」。他の参加者も一様に「へえ」といった面持ちだった。実際、グランドセントラル駅の所有者は誰かと聞かれても、ほとんどのニューヨーカーは即答できないのではないか。一瞬考えて、「ニューヨーク州メトロポリタン交通局(MTA)だ」とか「メトロノースだ」と思うはず。漠然と「公共の建造物だ!」と主張する人もいるだろう。

 ところが実際には、アンドリュー・ペンソンという、主に不動産投資を手掛ける実業家がオーナーなのだ。ペンソン所有の有限会社ミッドタウン・トラッケージ・ベンチャーズが2006年、アメリカン・プレミア・アンダーライターズ(不動産・災害保険会社)から、約8000万ドルで購入している。余談だが、同年ペンソンは西34ストリートのマンハッタンモールを6億8900万ドルで売却している。グランドセントラル駅の購入価格は破格というべきだろう。

 ペンソンが所有するのは、駅の土地、建物、ポキプシーまでの75マイル他の複数線路、それに駅上空の空中権だ。

 MTAはテナントとして年間224万ドルのレントをペンソンの会社に支払っている。2017年にはMTAが全てを買い取るオプションもあったが実現しておらず、リース契約は2032年まで更新可能ということ。

 それにしてもこの現オーナー、人前に出たがらない。グランドセントラル駅の開設100周年記念パーティーが、2013年オイスターバーで開催された際も、直前までペンソンは招待リストから漏れており、結果的にはユダヤの祝日だからという理由で欠席していると、ニューヨークタイムズ紙が伝えた。

歴史的に私営・官民共同

 個人所有の事実に驚いてみたものの、歴史を振り返るとグランドセントラル駅は最初は私営、のちに官民共同運営になっている。この駅の前身であるグランドセントラル・デポの創設者・所有者はコーネリウス・バンダービルトだ。日本人が「グラセン」と呼び親しむこの駅。来週からその100年以上の歴史と、さらなる未来を追いかけてみよう。(佐々木香奈)

グランドセントラル駅構内にあるツアー窓口。ウェブサイト(www.docentour.com/gct)でも申し込める
オイスターバーに続く通路。ガイドのスティーブさんいわく「この吹き抜けは、改築前はトンネルだったんだ」
1913年開設当時のグランドセントラル駅の写真。バンダービルトアベニューと42ストリートの入り口近くにある

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