2017/10/06発行 ジャピオン936号掲載記事

この街に住みたい

世界中から人が集まるニューヨークには長い発展の歴史と物語がある。ハイライン探索もいよいよ後半。高架線を歩けば次々と現れる最先端建築に、しばし見とれてみよう。

ハイライン❺

 前回は元神学校のハイラインホテルでちょっと寄り道をしてしまった。20ストリートの入り口から、またハイラインに戻って辺りを見渡す。小道が細くなり、両脇の茂みが深くなる。秘密の花園みたいな景色と対照的に、高架線沿いの建築はやたらモダンだ。

 チェルシーの、この界わいは、古くから工場ビルの密集地帯で、一部の大型建物は現在、アートギャラリーの雑居ビルとして残っているが、老朽化した建物はずいぶん取り壊された。その跡に、思いっきり意匠を凝らしたデザインのビルが競うように立つわけだ。ハイラインは、居ながらにして現代建築の「最先端」を鑑賞できる「歩く建築展」とも言える。

川風のF・ゲーリー

 まず目を引くのは、グッゲンハイム美術館ビルバオ分館やウォルト・ディズニー・コンサートホールの建築で有名な、フランク・ゲーリーの設計によるAIC本社ビル。18ストリート辺りまで少し戻ってハドソン川サイドを臨むと絶好の「インスタ映えポイント」がある。ゲーリーの「十八番」とも言える、うねるような曲線は、ニューヨーク伝統の機能重視で直線的なビル建築に対して明らかなアンチを叫んでいる。まるでハドソン川を行く帆船のような颯爽としたイメージ。ニューヨークの摩天楼の中では異質だが、ハイラインの風に吹かれながら見ると、なんとなくしっくりくる。

カニエ好みとザハの遺言

 23ストリートの高架線ギリギリに、のしかかるように立つ「HL23」というビルも見ものだ。ニューヨークには「建ぺい率というものがないのか?」と首を傾げたくなるようなデザイン。9階建てだが、1階より9階の床面積の方が広いのだ。構造建築の専門家ならこのくらいの芸当はお手の物なのだろうが、素人には圧巻である。建築家のニール・デナリは、西海岸で巨大なスーツケース型の住宅を作るなど、奇抜なデザインで人を驚かすのが趣味のようで、ラッパーのカニエ・ウェストもお気に入りだ。

 そして、27ストリートの西側に現れるのが、あの新国立競技場コンペで物議をかもしたザハ・ハディド設計によるコンドミニアム。ダイナミックなラインの鉄骨とガラス張りのデザインは、一見威圧感があるが、室内に入ればふんだんに光の入るぜいたくなプライベート空間を提供するのだろう。確かに「押し」は強いものの、ニューヨークには東京と違って、ザハを許容する力があるのかもしれない。とことん無機質で強引なザハ流が、ハイラインの「侘び寂び」感のある人工庭園とマッチする。

 惜しくもザハは昨年3月に他界したが、彼女がハイライン脇に残したメッセージは、今後100年はここで生き続けるだろう。(中村英雄)

カナダ出身の建築家フランク・ゲーリーの設計したAIC本社ビル
ニール・デナリが設計した、コンドミニアムビル「HL23」。3部屋3寝室のコンドは約7億円
英国ベースに活躍してきたザハ・ハディドが手掛けた「520 West 28th by Zaha Hadid」

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