2017/09/08発行 ジャピオン932号掲載記事

この街に住みたい

世界中から人が集まるニューヨークには長い発展の歴史と物語がある。今週は、いよいよ人気の空中散歩道ハイラインを南の端から歩いてみる。その前に、まずは歴史のおさらいから。

ハイライン❷

 ウェストサイドを南北に走る貨物専用引込み線では、車や人間を巻き込む衝突死亡事故が絶えず、住民や市当局から「廃止せよ」との苦情が相次いだ。しかし、20世紀初頭、世界一の大港湾都市だったニューヨークでは貨物線は流通の大動脈。鉄道会社が「ドル箱」を廃線にするわけもなく、1931年にやっと高架化工事が着工。34年の6月28日に現在のハイラインに当たる高架貨物線が完成した。死亡事故は激減し、工場や倉庫に直結する同線は資材の搬入搬出の効率向上に多大な貢献をした。その活躍は60年まで続く。

鉄道衰退でお払い箱

 1960年代に入ると高速道路網が整備され、トラック輸送が主流となり鉄道貨物は急速に衰退した。60年には高架線最南端バンクストリート以南の港用引込み線がカットされ、80年には冷凍七面鳥を運ぶ3両編成の貨物列車の通過を最後に高架線は廃線となった。2009年に、「ハイライン」として蘇るまでの長い不遇の歴史は、後の回で詳しく述べるが、忘れられた都市遺産である高架線は、「邪魔だ」「見苦しい」「犯罪の温床」などと罵られた存在であったことは明記しておく。

 特に80年代後半、不動産業社を中心に撤廃派が勢力を増す。91年には、倉庫ビルの住宅化を理由に最南端からさらに5ブロックの高架線が解体された。

最南端から登る

 突然、ハサミで切ったように断ち切られた今の最南端は、新装のホイットニー美術館とつながっていて、全11カ所ある登り口としては、ここが一番大きくて分かりやすい。高架線は2階半ぐらいの高さ。登ったとたんに視点が変わる。北へ向かって右手には、ファッションの発信地ミートパッキング地区が一望でき、左手はハドソン川越しにニュージャージーまで見渡せる。日差しがやや緩んだ晩夏の川風が爽快だ。コースの左右に残っている廃線の周りでは、昔からここにあったかのように草木がそよいでいる。主にニューヨーク州の植物だと聞いた。

 自然が豊かな光景とは対照的に、まず行方に立ちはだかるのがザ・スタンダード・ホテル。2009年ハイラインが南から部分開園した際、空中散歩道をまたぐ大胆な位置関係(13ストリートとリトル・ウェスト12ストリートの間)で開業した。ファッション関係者に人気で、ニューヨーク・コレクションの時期にはモデルやデザイナーであふれかえる。

 同ホテルの股下をくぐると、左手にはハドソン川の絶景が。手前の半円形の鉄製構造物は、1912年にタイタニック号が到着するはずだった第54埠頭入口跡だ。散策は夕暮れ時がベスト。落陽を眺めながら100年前の栄華に思いを馳せるのがいい。(中村英雄)

ミートパッキング地区にあるハイライン最南端。後ろの建物はホイットニー美術館。散策はここから始めよう
ハイラインをまたいで建つモダンなザ・スタンダード・ホテル。全337室からマンハッタンの絶景が堪能できる
ハイラインから見るハドソン川越しの眺望。左の半円形構造物が第54埠頭(公園として改修中)の残骸

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