2014/10/31発行 ジャピオン786号掲載記事

この街に住みたい

リンカーンセンター周辺❹

3大ホールに歴史あり

 今月から始まった新コラム「NYいまむかし」。第1回はリンカーンセンターの現敷地がかつてはニューヨーク一劣悪なスラム街だったことを書いた。2回目では、そのスラム撤去の最中に生まれた傑作ミュージカル『ウエスト・サイド物語』の数奇な生い立ちを、3回目は、かつての悪の温床が今は未来の芸術家育成所になっている話を紹介した。最終回は、リンカーンセンターに立ち並ぶ名ホールの魅力を語りたい。

 リンカーンセンターの敷地に向かうと、噴水のある広場を3棟の堂々たる建築が囲んでいる。いずれも建材にトラバーチン(イタリア大理石)を使い、統一感があるが、よく見ると違いが分かる。まず、向かって右がエイヴリー・フィッシャー・ホール。座席数2738席。同センターの中では一番最初(1962年)に開館し、ニューヨーク・フィルハーモニックの本拠地となった。開館当時ホール内の残響に問題があり、クラシック演奏家からは評判があまりよろしくなかった。ところが、マイルス・デイビス(ジャズ)、サイモンとガーファンクル(フォーク)ら他ジャンルのミュージシャンがここで演奏すると出来が抜群で、名ライブ盤を残している。

 エイヴリー・フィッシャー・ホールの真向かいが、デビッド・H・コッチ劇場(旧名ニューヨーク州立劇場)。64年の世界博を機に開館したホールだ。座席数2586席。直線的で洗練された建物は、フィリップ・ジョンソンの設計による。ジョンソンといえば旧ソニータワーや53丁目のリップスティックビルの設計でも有名な米モダニズム建築の第一人者。同ホールはニューヨークシティー・バレエの本拠地だが、60年代当初は、『王様と私』『ショウボート』など名作ミュージカルのリバイバル公演も盛んに行ない、それが伝統となった。2008年に10年がかりの改装工事を目的に資産家コッチ氏が1億ドルの寄付をしたため現名称に変わった。

歌劇場の常識を覆すMETの建築

 両ホールを左右に侍らせ堂々勇姿を見せるのが、メトロポリタン歌劇場。座席数3800。設計を担当したウォレス・ハリソンはニューヨークを拠点に活躍し、ロックフェラーセンターや国連本部の建築プロジェクトを総指揮した近代建築の大御所だ。冷戦時代のアメリカでは、大胆かつ合理的な建築デザインが流行し、ハリソンのメトロポリタン歌劇場もその流れをくんでいる。欧米の古色蒼然、絢爛(けんらん)豪華なオペラハウスに「けんかを売る」かのようなシンプルかつ荘厳な設計には、オペラの概念を建築面から塗り替えてやる、という気概さえ感じる。同オペラハウスは66年開館。こけら落としは、モダンな建物にふさわしくサミュエル・バーバーの『アンソニーとクレオパトラ』の世界初演だった。

 オペラのシーズンは9月〜翌年の5月。今季も新旧合わせて20以上の演目が上演されているので、ファンならずとも一度はリンカーンセンターへ足を運んでみるといい。開演5分前のベルと同時にするすると引き上がる11基のモダンシャンデリア。巨大な舞台には、7台の「せり」、3枚のスライディングステージ、直径18メートルの回り舞台が仕組まれ、思いもよらぬスペクタクルが飛び出す。特に、同歌劇場の真骨頂ともいわれる『ラ・ボエーム』『トゥーランドット』『アイーダ』などの公演では200人もの出演者が馬や象とともに舞台に乗り、目もくらむような劇場体験が味わえる。一体、どうなってるの?と気になる人には歌劇場の舞台裏を見せてくれるツアーもある。

 荒廃していた都会の掃きだめを、音楽の殿堂に生まれ変わらせたニューヨーク。そのパワーの源は財力や政治力だけではない。人々が芸術と地元に寄せる愛の深さにこそあるのだと思いをあらたにした。
(中村英雄)

威容を誇るリンカーンセンターの3大ホール。正面がメトロポリタン歌劇場、右がエイヴリー・フィッシャー・ホール、左がデビッド・H・コッチ劇場。
1962年オープンのエイヴリー・フィッシャー・ホールは、76年、92年、2005年に音響設計の改修が行われ、現在に至る。
ニューヨークシティー・バレエの本拠地デビッド・H・コッチ劇場では、11月28日から毎年恒例の『くるみ割り人形』が上演される。

メトロポリタンオペラ・バックステージツアー

メトロポリタンオペラ・バックステージツアー 世界最高峰のオペラの製作現場を間近に見ることができるツアー。背景画やセットの製作部門、リハーサル室、衣裳部屋、ステージなどを見学できる。公演中の日曜日と平日はほぼ毎日行われる。(スケジュールの詳細は下記ウェブサイトで確認できる)

www.metguild.org/guild/BackstageTours/BackstageToursDisplay.aspx

参加料:一般22ドル、メトロポリタンオペラ・ギルド会員20ドル、学生、10名以上の団体18ドル

要予約。

※ 予約は電話か下記ウェブサイトで。

TEL
212- 769-7028
WEB
http://www.metguild.org/guild/Calendar/Default.aspx?id=BST

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