2017/08/11発行 ジャピオン928号掲載記事

この街に住みたい

世界中から人が集まるニューヨークには長い発展の歴史と物語がある。キップスベイの「病院街」の歴史第2弾は、独特なオーラを放つ旧ベルビュー病院精神科別棟について。

キップスベイ❻

 1アベニュー沿いの29&30ストリート、NYUランゴーン・メディカルセンターと、市営の児童・家庭福祉施設「ニコラス・スコペッタ・チルドレンズセンター」に挟まれたレンガ造りの古い建物が、旧ベルビュー病院精神科別棟だ。現在は市の男性専用ホームレスシェルターになっている。

 アメリカ植民地時代創設のベルビュー病院に、最初の精神科病棟ができたのは南北戦争終結から14年後の1879年。1892年に、アルコール依存症専門病棟が増設された。このころは「病棟」と言っても、ベルビュー病院本棟の一部だった。今も残る「別棟」が建設されたのは1931年だ。イタリア・ルネッサンス建築様式の荘厳な外観は今も健在。周囲の近代的ビルに囲まれ、そこだけタイムスリップしたような、独特のオーラを放っている。

精神科病院の代名詞に

 当時ここは、警察から移送されて来た精神障害犯罪者であふれかえっていたといわれる。〝普通の精神科病院〟ではなく、精神障害者と犯罪者、アルコール・麻薬依存患者が一緒くたに集められていた。開設後すぐにその荒んだ様子が全米に知れ渡り、「ベルビュー」という名前が精神科病院一般を指すスラングになっていた時代さえある。

 アルコールや薬物依存で入院していた著名な患者は、1960年代の女優エディ・セドウィックや、小説家ノーマン・メイラーなど。1980年ジョン・レノンを射殺したマーク・デービッド・チャップマンも、ここに収容されていた。

ホームレスシェルターに

 精神疾患を抱えるホームレスが多かったこともあり、この別棟は自然、ホームレスの一時収容所としても機能していた。ほぼ全てが〝出戻り組〟で、事実上のホームレスシェルターだ。1984年、ついに精神病棟としての門を閉じ、1998年から正式にニューヨーク市の男性専用ホームレスシェルターとして生まれ変わる。その間空白の14年間は、エイズ患者の支援施設として機能していた。

 21世紀に入ると、この古くも美しい建築物をホームレスシェルターにしておくのはもったいないと、改築して豪華ホテルにする案が、ニューヨーク市とデベロッパーとの間でしばらくくすぶっていた。2010年にはポシャったが。

 ちなみに、南に隣接する児童・家庭保護施設は、各種の問題を抱える児童やその家族を保護し、福祉を提供、フォスターケア(里親)などの斡旋をする機関だ。ニューヨーク市の元消防署長/元児童福祉課代表のニコラス・スコペッタの名を冠している。

 北隣が病院、南隣が児童福祉センター、その南がベルビュー病院では、豪華ホテルの立地条件としてはもう一つだったのかもしれない。(佐々木香奈)

アベニュー沿いの29&30ストリートにある旧ベルビュー病院精神科別棟。1931年築
市営の児童・家族福祉施設(旧ベルビュー病院精神科別棟、現在の男性用ホームレスシェルターの南)

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