2017/07/28発行 ジャピオン926号掲載記事

この街に住みたい

世界中から人が集まるニューヨークには長い発展の歴史と物語がある。前回の続きで、キップスベイの謎の一つ、ローズヒル・ヒストリックハウスの歴史を探る後編。

キップスベイ❹

 ニューヨーク市は1800年代半ば、火災防止を理由に、マンハッタンでの木造家屋建設を禁止した。よって、今マンハッタンに残る木造建築物は数えるほどしかない。キップスベイのタウンハウス「ローズヒル・ヒストリックハウス」は、そのうちの一つだ。

 前回は、この家が1700年代半ばに建てられたオリジナルのファームハウスではないか、というところまで話を進めた。1811年、マンハッタンで碁盤の目開発が始まったのち、このファームハウスが元あった場所から建物ごと移動されたのではないか——ニューヨークタイムズ紙の記者、クリストファー・グレイが調査の末たどり着いた仮説だ。が、その信憑性についてはグレイ自身も半信半疑。

3階建てか、4階建てか

 市建築局が建築許可を正式に発行し始めたのが1860年代以降。それまでの建築物の記録は、所有者が税金申告に記入した内容を信じるしかない。1860年の税金申告記録では、このファームハウスは「3階建て」となっている。

 現在の写真を見ても分かるように、建物は明らかに4階建てだ。ということは、これはオリジナルではないのか。グレイはさらなる仮説を立て、あらゆる可能性を検討している。単なる「書き間違い」か、税金を免れるため階数をごまかしたのか、天井が低い最上階は数えなかったのか…。さらには、上部の木造3階分が浮かんでいるように見えることから、後から1階部分を建て増したとも考えられる。

 1905年の国税調査では、この家には当時トラック運転手一家、バスの運転手一家、製本業者一家という3世帯が住んでいた。ニューヨーク公立図書館所蔵の写真から、1912年には1階部分に中古家具などを売る「ジャンクショップ」の看板が出ていることが分かる。

謎のまま存在し続ける家

 1960、70年代には、このファームハウスが「ランドマーク」指定の対象として注目されたことがあった。「屋根の建築様式がその古さを物語っている」「オランダ建築の可能性もある」として、専門家らは「大発見」に息巻いたという。しかし、その後の調査でも築年は明確には分からず、「多分1845年頃(マンハッタンで木造建築が禁止される直前)だろう」と、ランドマーク指定には至らなかった。

 そして1979年、この家をある夫妻が8万ドルで購入し、外壁はそのまま残したが、内部はすっかり改築した。もはや元の築材や様式から建築年数を調べることも難しいという。調べれば調べるほど謎が深まり、結局は諦めざるを得なかったというのがグレイの結論だ。恐らくはこれからも謎のまま存在し続けるのだろう。(佐々木香奈)

上部の木造3階分が、浮いているように見える「ローズヒル・ヒストリックハウス」(203 E. 29th St.)
“母屋”に隣接した前庭の門扉の横に、「ローズヒル・ヒストリックハウス」の表札

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