2017/02/10発行 ジャピオン902号掲載記事

この街に住みたい

グリーンポイント散策❻

工場街の天才少女

 20世紀初頭、工業に沸くグリーンポイントでは、演劇やボードビル(演芸)も盛んで、目抜き通りには映画館や劇場が軒を並べていた。

 この街から世界的エンターテイナーも誕生した。女優のメイ・ウェスト(1893〜1980)である。日本では、コアな映画ファン以外、彼女の名前を知る人は少ないだろう。

 1983年、ハーバートストリート生まれ。ドイツ系の母親は縫製工場の女工。アイルランド系の父親は、腕っぷしが強く「ストリートファイト」の猛者で、豪放な性格から近所の人気者だった。物心がついた頃から天才的な歌とものまねで家族を沸かせていたメイは、弱冠7歳で地元の演芸劇場のステージに立ち、やんやの喝采を浴びる。その後、地元ファンの熱狂を受け巡業劇団に参加。小学校は3年生で中退した。この経歴、我が不世出の歌姫「美空ひばり」のデビューとよく似ている。

 成人したメイは豊満な肢体と際どい物言いで芸に磨きをかけ、ニューヨーク周辺の劇場を席巻。ボードビル界の女王となる。アメリカでも、女性は「おしとやかに男にかしずけ」みたいな風潮が強かった時代に「お色気」を武器に、しかも「女を安売りしない」したたかなキャラでブロードウェーに乗り出したものだから大劇場は満員御礼。中でも、1926年に上演した喜劇「セックス」は、あまりの過激表現ゆえに警察隊が舞台に突入。即刻中止を命令。キャストと共に逮捕されたメイは禁固8日の実刑を食らった。時あたかも、禁酒法時代のただ中。表現の自由が著しく阻害された暗い時代だったためか、一般大衆はメイの果敢な行動に大きな拍手を送った。収監時にメイを乗せたリムジンには無数の男女ファンが群がり、おびただしいバラの花束が投げつけられたというから、庶民の星の勝利である。

もの言うセクシー女王

 主演する芝居のほとんどの脚本を自ら手がけたメイ。「意味深な」台詞を書かせたら右に出るものはいなかった。数々の悩殺ゼリフの中から比較的おとなしいものを。

 「火遊びする女は知って いる。煙が目にしみる、っ てことをね」

 「私、素直な時はとても イイ子だけど悪態つくと もっとイイわよ」

 その後35歳で映画デビューしてハリウッド女優としても大成功したメイだが、その血管にはグリーンポイント労働者たちのセンスと心意気が流れていた。スクリーンのセックスシンボルの座は、マリリン・モンローやマドンナに受け継がれたのだろう。かたや、解放された女性による胸のすくような表現は、最近の反トランプデモ、猫耳たちのプラカードにもつながるような気がする。(中村英雄)

マンハッタンアベニューにあった映画館「メセロール座」は1921年開館。メイ・ウェストの映画もきっと上映しただろう
1978年、「メセロール座」は映画館としての役目を終え、現在はドラッグストアになっている
映画黄金時代には娯楽の殿堂だった「メセロール座」。大劇場(1978席)の名残は店内随所に見られる

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