2016/05/20発行 ジャピオン865号掲載記事

この街に住みたい

インウッド散策❶

マンハッタン最北端

 南北の長さが21・6キロあるマンハッタン島。その最南端は、ご存知「バッテリーパーク」だが、最北端は? と聞かれると答えに窮する。正解は「インウッド」。おそらく訪れたことのある読者はほとんどいないのではないかと思う。

 地図を広げて見ると、ミッドタウンから遥か遠く、まさに「最果て」だ。流行のレストランやショップがあるとも思えず、用がなければ行かない場所だ。一体どんな歴史があり、誰が暮らしているのだろうか?

A列車で行こう

 インウッドへ行くのは、さして困難ではない。「インウッド207ストリート行き」Aラインに乗ればいい。42ストリートからわずか4駅の停車で168ストリートまで北上する。そこから先は、ぐっと乗客が減り、トロトロ運行の各駅停車となる。「最果て」感がじんわり車内に漂うが、意外やミッドタウンから30分弱で終点に到達できた。

 駅を降りるとブロードウェー。南の方では金融街、ソーホー、劇場街とにぎやかだが、同じ道がここまで来ると程よくうらぶれて地方の宿場町を思わせる。関東でいえば東京に対する西川口みたいな空気だ。空が広い。

 不安と解放感をないまぜにして、旅人気分でブロードウェーを10ブロックほどさらに北へ向かう。

 朽ちかけたパブや商売気のない理髪店などが無表情に肩を寄せ合っている。アメリカ本土(ブロンクス)に渡る橋の手前、218ストリートで左折。コロンビア大学のスタジアムを右手に、しゃくし定規なアパート群を左手に見ながら、坂を登っておりるとインウッド・ヒル・パークの入り口だ。

太古を感じる森

 総面積80ヘクタールの同パークこそがマンハッタン島の最北端。

 園の大部分を占める標高60メートル余りの丘陵には原生林がうっそうと茂っている。ブナ、カエデ、ユリノキ、ヒッコリーなどの大木のみならず、低木やつる植物が織り成す青葉のグラデーションは、目にとても心地よい。セントラルパークのような造園された森とは違って、自然の息吹を肌で感じることができる。原生林はマンハッタンでもここだけだそうだ。

 森の散歩道を登ると、巨岩が荒々しく露出している場所に出くわす。この丘を作ったウィスコンシン氷河(およそ8〜1万年前)の置き土産だ。

 自然の造形を利用してこの地に暮らしていたのは先住民レナペ族。しかし、17世紀、ハドソン川とハーレム川で魚介類をとり、森で植物をとる彼らの素朴な生活に突如、西欧人たちが割り込んで来た。詳しくは次回に。(中村英雄)

氷河が作った巨岩。岩陰はレナペ族の格好の野営所となった。各所で先住民の遺跡が発見されている
氷河が作った巨岩。岩陰はレノペ族の格好の野営所となった。各所で先住民の遺跡が発見されている

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