2016/05/13発行 ジャピオン864号掲載記事

この街に住みたい

マーレーヒル❺

豪華!炭鉱王の邸宅

 規模ではマーレーヒル最大、その風格たるやマンハッタン有数の一戸建てマンションが、37ストリートとマディソンアベニュー北東の角に立つ「デ・ラマール・マンション」(233MadisonAve.)だ。JPモルガン・ジュニア・マンションの真向かいにある。

 かつてこれが個人宅だったとは、現代の基準では到底思えない。ここは、1902~05年にかけて、ジョゼフ・ラファエル・デ・ラマール邸として建設された。デ・ラマールは、オランダ生まれの海運業者で、19世紀半ばのカリフォルニアとコロラドのゴールドラッシュで大もうけした人だ。

 1918年デ・ラマールの死後、娘のアリスが財産を受け継ぐが、富や名声に興味がなかったアリスはすぐに売り払い、自分は赤十字のボランティア活動などに精を出したという。

 1973年からポーランドの在ニューヨーク総領事館となって、著書「エクスプロアリング・マンハッタンズ・マーレーヒル」(ヒストリー・プレス刊)によると、当時の買値は90万ドルだったそうだ。

 建物の入り口右側にはベンチに座ったジャン・カルスキー像が置かれている。カルスキーは、第二次世界大戦中のポーランドのレジスタンス活動家。ナチスのユダヤ人虐殺の実態を世界に伝えた人物だ。戦後アメリカに帰化している。

19世紀のコメディークラブ

 19世紀マーレーヒルは、いろいろな意味でのニューヨークの中心地だった。芸術面でもしかり。36ストリートの、3とレキシントンアベニューの間に、「Sniffen Court」という、古くは厩舎(きゅうしゃ)だったアパート群がある。その中の「1 Sniffen Court」は、1884年以来ずっとアマチュア・コメディークラブが所有しており、市内最古のプライベート劇場だ。今でも「マーレーヒル・コメディークラブ」として、年4回ショーを行っている。会員(約400人いるといわれる)しか入れないので、一般にはほとんど知られていない。ゲートの奥にあり、何やら秘密めいた雰囲気…。

 さらにマーレーヒルは、古くはアーティストが多く住んだエリアでもある。近代のソーホーかチェルシーかといえば、ちょっと違うかもしれないが、意外な大物を生んでいる。

 例えば、「166 E. 38th St.」は、あのサウスダコタ州ラシュモア山にある大統領の巨大な顔彫刻で知られる作家、ガットソン・ボーグラムが1901年に購入し、12年までスタジオにしていた場所だ。ここでボーグラムは、のちにラシュモア山に作るリンカーンの顔の初期モデルを作っている。

 金融王、炭鉱王、ホテル王、英雄、大統領から美術家まで、歴史に名を残す傑物がこぞって住んだのが、マーレーヒルなのだ。(佐々木香奈)

36ストリートの3アベニューとレキシントンアベニューの間にあるSniffen Court
1902~05年築の「デ・ラマール・マンション」(233 Madison Ave., at 37th St.)。現在はポーランド領事館
手前はかつてのバンダービルト・ホテル(34th St. & Park Ave.)

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