2016/03/25発行 ジャピオン857号掲載記事

この街に住みたい

フォレストヒルズ❸

 フォレストヒルズの発展にテニスが一役買ったと前回書いたが、1917年7月4日の独立記念日、セオドア・ルーズベルト元大統領(第26代大統領、任期1901―09年)が、フォレストヒルズを訪れて演説を行ったのも、あながちテニスと無縁ではないという説がある…。

T・ルーズベルト元大統領
テニスクラブの会員だった

 当時ルーズベルトの人気は絶大で、特に独立記念日には全米至る所から演説依頼が殺到していた。しかし、健康を害していたためほとんどの依頼は断っていたという。そのルーズベルトが、フォレストヒルズからの招待にだけ「うん」と言ったのだ。これには主催側であるフォレストヒルズ・ガーデンズ関係者も驚いた。なぜ?

 著書「イメージズ・オブ・アメリカ~フォレストヒルズ」(ニコラス・ハーション著、アーケーディア出版)によると、その理由に、ルーズベルトの親しい友人がフォレストヒルズ・ガーデンズ住民だったからという説を挙げている。そしてもう一つの有力説が、ルーズベルトの趣味がテニスだったこと。

 大統領時代、ルーズベルトは毎日のように午後の短い時間、ホワイトハウスのテニスコートで練習していたともいわれ、フォレストヒルズにかの「ウェストサイド・テニスクラブ」(1915―78年のUSオープン開催会場)が移転すると、密かに会員になっていたのだ。演説場所は、そのテニスクラブからも歩いて2、3分の、ロングアイランド鉄道フォレストヒルズ駅前広場。駅舎の階段に星条旗の垂れ幕が施され、ルーズベルトはそこで、あの有名な「100%アメリカ人」演説を打った。

 背景を補足するなら、折しも1914年第一次世界大戦が勃発。17年といえばアメリカがドイツに宣戦布告した年だ。ドイツ系住民も多かったフォレストヒルズで、ルーズベルトは「米国民は、複数の愛国心を操る〝外国系アメリカ人〟ではなく、〝100%アメリカ人〟であるべき」と主張したのだった。この演説は全米に報道され、歴史に残る言葉となった。

 このルーズベルトの訪問が、フォレストヒルズというコミュニティーに箔(はく)を付けたのはいうまでもない。

地下鉄延長と世界万博
住居ビル建設ラッシュ

 1936年12月30日。フィオレロ・ラガーディア市長の時代、マンハッタンとクイーンズをつなぐ地下鉄路線「インディペンデント・サブウェー・システム」が、ジャクソンハイツから、フォレストヒルズ、そしてキューガーデンズまで延長された。

 3年後にフラッシングメドウズで開催される世界万博に向けての交通インフラの整備だったが、フォレストヒルズへの長期的ベネフィットは計り知れないものがあった。マンハッタンとの間を、安価な運賃で往復できるようになり、不動産開発ブームの引き金となった。

 余談だが、開通式の日、記念昼食会の席で、ジョージ・ハービー・クイーンズ区長が、「これでクイーンズブルバードは将来〝クイーンズのパークアベニュー〟になる」と大演説を打ったことが語り継がれている。お世辞にも実現したとはいえないが、それでもその年を境に、クイーンズブルバード沿いは各種店舗やレストラン、住宅開発が目白押し。その後39年、64年の2回にわたるフラッシングメドウズでの世界万博は、フォレストヒルズ周辺にその後数十年にわたる住宅開発ブームをもたらした。

 実は、その地域発展と平和な生活が脅かされる「事件」が、60年代後半から70年代初頭にかけて起こっている。ジョン・リンゼー市長が、市内から〝貧民街〟を一掃するため、裕福な白人中流階級コミュニティーに、低所得者を移住させる政策を提案。その第一弾として、フォレストヒルズ北端一帯に、低所得者専用住宅(プロジェクトと呼ばれるもの)を建てると言い出したからだ。

 主にユダヤ系住民が大反対し、クイーンズブルバード上空には反対バナーが翻った。このとき、市と住民の間に入りフォレストヒルズを救ったのが、若き弁護士マリオ・クオモ(後のニューヨーク州知事)だった。建設自体は避けられなかったものの、低所得者用住宅の規模を当初の半分にまで縮小し、さらには入居者のほとんどを高齢者と退役軍人に絞った。

 「わが街に貧乏なマイノリティーはお断り」という、住民による差別意識は否めないが、「プロジェクト」を遠ざけたい気持ちは理解できる。今のフォレストヒルズがあるのも、このときのクオモの采配があったからこそと言える。 (佐々木香奈)

1917年の独立記念日、T・ルーズベルト元大統領が「100%アメリカ人」演説を行ったLIRRフォレストヒルズ駅
5、6階建てのレンガ塀の住宅ビルは、1950年代の住宅ブームで建てられたもの。これはフォレストヒルズのクイーンズブルバード北側の住宅群
現在のクイーンズブルバード。1960年代後半から70年代前半には、この上空に低所得者住宅建設への反対バナーが翻った

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