2015/10/16発行 ジャピオン835号掲載記事

この街に住みたい

タートルベイ❷

 タートルベイの「新時代」は、2と3アベニューを走る鉄橋列車「EL」の撤廃とともに始まる。1956年2月16日、「3アベニューEL」の撤廃式が42ストリートの角で行われた。運行、鉄橋撤廃もすでに終わっていたが、この日は大型クレーンで、最後の1本の柱を取り壊す儀式。まさに「ELの最期」を住民が見届ける日だった。オールド・ニューヨークの終焉と言ってもいいだろう。
 
 鉄橋列車ELは、1878年に運行を開始。今の地下鉄の前身であるIRT(インターボロ・ラピッド・トランジット・カンパニー)が運営していた。2、6アベニュー他の路線は、1940年代から徐々に廃止され、3アベニュー路線だけが残っていた。この路線は、現在の市庁舎から129ストリートまでの7・5マイル。その全線が撤廃されたわけだが、その後の都市計画の目玉になったのが、タートルベイを含む42から57ストリートだった。

3アベニューの改名

 EL時代の3アベニューといえば、酒場、質屋、アンティーク商が並ぶ、ある意味〝下世話〟な通りとして知られていた。その3ベニューを中心にミッドタウンイーストを、EL撤廃後の50年代後半から、市は「マンハッタンのゴールドコースト」として開発に躍起になった。不動産価格は一気に高騰し、高層ビルの建築ラッシュが始まろうとしていた。
 
 それに伴い、3アベニューの改名案まで出たほどだ。せっかく新時代に入ろうとしているのに、これまでの暗いイメージがつきまとう名前では、具合が悪いということらしい。「インターナショナル・ブルバード」とか、「ザ・バワリー」「アベニュー・オブ・プロムナード」「マッカーサー・ブルバード」などが候補に上がった。が、結局はそのまま「3アベニュー」に留まったのはいうまでもない。安堵(あんど)のため息、といったところか。
 
 15から20階建ての住居ビルがあちこちで建ち始めたのも、50年代後半から60年代前半だ。当時の〝超高層高級住居ビル〟で、特徴は外壁が白いレンガ造りであること。当時の流行だったわけだが、白壁は汚れが目立ち、外壁修理に費用がかかるのが玉にきず。今ではそれを指して、「ホワイトビルディング・シンドローム」という形容詞が付くようになった。

交通渋滞はこの頃から

 戦後すぐの50年代は、アメリカの自動車産業がブイブイ言い始めた時代。狭いマンハッタンの道路を、年々幅広く、長くなるアメ車が所狭しと走っていた。おのずと交通渋滞になる。しかも、57、58年と、特に49、50ストリートの渋滞が悪化し、市が58年に提案したのが、49、と50ストリートの舗道を狭め、沿道の植木を引っこ抜き、もっと車が通れるよう車線を広げようというものだった。さあ、これにはタートルベイの住民が黙っていなかった。自分たちの住む美しい通りが、車道のために犠牲にされようとしていたのだから。
 
 古くからのタートルベイの住民は、「大都市の小さなコミュニティー」として、このエリアを誇りに思っている。今の住民団体「タートルベイ・アソシエーション」の前身、「49ストリートアソシエーション」の設立も、市の「車道拡張計画」がきっかけだった。真っ先に立ち上がったのは、49ストリートの2と3アベニューに住む著名なインテリア・デザイナー、ジェームズ・アムスターだ。「49ストリートアソシエーション」の初代会長でもある。
 
 アムスターは、1940年代に19世紀建築のブラウンストーンをいくつか購入し、そのビル群の中庭をデザインし、住人の憩いの場としていた。この中庭は、今も「アムスターヤード」として残り、一般公開されている。彫刻家イサム・ノグチも、当時のアムスターヤードの住人の一人だった。
 
 現在も49、50ストリートの舗道や植木は健在なのを見れば分かるように、この市の計画はアムスターらの説得で頓挫したわけだが、もう一人の立役者はピーター・デトモントという不動産エージェントだった。デトモントの調べで、東49ストリートに〝仮住まい〟していた警察分署の警官ら自らの違法駐車が、交通渋滞の根源であることが判明したのだ。デトモールドらは、警察に呼び掛け違法駐車の取り締まりを強化させた。行政にも直訴し続けた。
 
 ニューヨークタイムズ紙も違法駐車の野放し状態を非難し、警察や市長を叩き、市が正式に「車道拡張計画」を白紙に戻したのは61年。今の49、50ストリートの舗道が健在なのは、先人の闘いのたまものだということだ。 (佐々木香奈

15〜20階建ての白壁の住居ビルが、1950年代後半からタートルベイに林立し始めた
49ストリートの2と3アベニューの間にあるアムスターヤードの入り口。中庭は一般公開されている
アムスターヤードの中庭の一角。かなり広い中庭で、今はギャラリーなども1階のテナントとして入っている

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