2015/10/02発行 ジャピオン833号掲載記事

この街に住みたい

リトルイタリー❹

起源は南部イタリア

 イタリア移民と組織犯罪の関係は歴史的事実。18世紀以来、南部イタリアには領主と小作農の間に入り、調整役を演じながら私腹と権力を肥やす集団があった。問題処理には暴力や非合法手段も辞さず、強力な「親分子分」関係でつながる彼らの組織力は、当地のイタリア移民社会の統合にも都合が良かった。貧しく新天地に不慣れな移民にとってありがたい互助組織。これがいわゆるマフィアの母体である。

 1890年ごろからシチリア系グループによる賭博、恐喝、麻薬売買などの非合法活動が始まる。出身地別に派閥も生まれ、1910年代にはシチリア系に対抗してナポリやカラブリア出身の組織も台頭。20年の禁酒法施行後は酒類の密輸密売が資金源となり、抗争はいっそう激化する。有名なアル・カポネやラッキー・ルチアーノは、この時代に「活躍」した悪党だ。

 マフィアは、港湾、土木、ゴミ処理、青果、芸能から政界にまで勢力を拡大。当然、イタリア系移民のイメージは悪化する。31年、激しい派閥抗争を経て、市内の犯罪組織は五つのファミリーに編成された。

暴力と闘ったイタリア系

 もちろんイタリア移民の全てがマフィアではない。フィオレロ・ラガーディア(空港や高校の名称にもなった偉人)は、33〜45年にイタリア系で初の市長を務めたが、志が高く、政治腐敗の一掃と組織暴力撲滅に命を賭けた。とくにボス中のボスと言われたルチアーノを逮捕し、監獄にぶち込んだのはこの市長の功績。時としてイタリア人の正義は血を超えるのである。

 戦時中のギャングは軍や諜報機関と関係を深め、戦後は腐敗の極致にあった労働組合と密接につながり、しまいに対キューバ政策など外交にまで関与。活動の場もリトルイタリーだけでなく、全世界に広がった。

 80年代まではリトルイタリーにもファミリーの拠点があり、物騒な一角もあった。当時の様子はマーティン・スコセッシ監督の映画「ミーンストリート」によく描かれている。事件と言えば72年のジョーイ・ギャロ暗殺が有名。「クレージー」のあだ名で恐れられてたこの殺し屋は誕生日の二次会で、朝5時にマルベリーストリートにあった海鮮料理「ウンベルト」に立寄り、家族と食事していた。その頃、リトルイタリーは「殺傷沙汰御法度」の非武装地域とされていたので、油断していたかもしれない。そこに コロンボ一家のヒットマンが乗り込みジョーイを射殺。店と組織が通底していたようだが、冷酷非情な現代マフィアを絵に描いたような事件で街中を震撼(しんかん)させた。

犯罪と背中合わせの本部

 この辺りで少し警察の話をしておこう。グランドストリートとブルームストリートの間に1ブロックを占拠する荘厳な建造物がある。住所は、センターストリート240番地。元ニューヨーク市警本部。完成は1909年。ボザール様式で堂々たるギリシャ式柱列を正面に配し、屋上にはイタリアの大聖堂のようなドームを頂く。時間があったら建物をぐるりと一回りするといい。ナポリにいるような錯覚に陥る。

 なぜ、こんな場所にと思うが、19世紀後半から警察本部はマルベリーストリートの300番地にあった。当時の警察署内は腐敗と収賄が横行し、1895年に署長を務めたセオドア・ルーズベルトはその粛正に心血を注いだ。新庁舎建築の理由はブルックリンやクィーンズなどの併合で管轄区域が広がったためだが、あえてリトルイタリーのど真ん中に移したのも、新生市警の威信と権力を見せ付けたかったからだろう。

 73年に64年間の「任務」を全うし廃館となり、15年に及ぶ放置の末、高級コンドに改装。今では1室4億円に跳ね上がり、成功者が資産を見せ付けている。

 かつて本庁の回りには銃砲店や関連業者が集まっていた。面白いのは裏手の通りを隔てた酒場。現在はごく普通の飲食店だが、禁酒法時代には本庁につながる地下通路があり、警官がお忍びで飲みに来る違法酒場だった。今でも地下の厨房奥には通路の跡が残る。2階には売春宿まであったそうだ。

 あれから80余年。今は平和になったリトルイタリー。禁酒の悪法も解け、自由に酒が飲める喜びをかみしめたい。懐かしいあの歌でも聴きながら。

 「♪ボトルで白? それとも赤? いや今夜はロゼがいいかもね〜」(ビリー・ジョエル「イタリアンレストランで」より)
(中村英雄)

リトルイタリーの一角にそびえる元ニューヨーク市警本庁。今は高級コンド。中には射撃場やバスケットコートなどを改装したユニークな部屋も
料理店「オニールズ」(写真右)は禁酒法時代には警察御用達の違法酒場だった。元本庁とは地下通路でつながっていた
「オニールズ」の地下に今も残る秘密の地下通路の入り口。掘り返せば当時の警察の不正がザクザク出てくるかも

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