宗家藤間流「市藤会」
NYで守る日本の文化 公演に向けて熱血稽古
シアターディストリクトの一角にあるリハーサル・スタジオ。ミュージカルのコーラスや、軽快なラップが交錯する廊下に、奥の部屋から長唄が漏れる。「いっそ浮気な そよ風や 恨みて煙る 塩がまは…」
部屋の中では、日本舞踊の宗家藤間流「市藤会」の9人の踊り手たちが、東京から駆けつけた指導者による稽古中。「ひい、ふう、みい、その間こっちは招く。一つ、二つ、女がぶちかける。男が逃げる。『行かないで…』」。途切れることのない指導の声。メンバーたちは、手指の繊細な動きから、目線、首のかしげ方まで、師匠の動きを一つ残らず吸収しようとする。
この日の稽古は5時間ぶっ通し。曲の合間には、肩で息するメンバーの姿も。「難しいけど、体を使うので気持ちいい」とは、子どもの頃にも踊りをたしなんでいたという清水光子。大学で日本語・日本文化を教える大西鏡子は、「伝統の素晴らしさを痛感してます」と満足げだ。そんなメンバーたちを、「ニューヨークのみなさんは、本当によくがんばってますよ」と師匠が褒める。
300年以上もの歴史を誇る宗家藤間流のスタイルは、古典重視だ。「基礎習得だけでも、5年以上かけます。今風のアレンジや即興は、一切やりません」と、メンバーたちは言い切る。現在のメンバーは、最年少5歳から最高齢85歳までの総勢20名。「最近、キモノへの関心から、日舞を始める若いアメリカ人が増えているのよ」と話すのは、ヘレン・モス。日舞歴25年で、「藤間錦乃」の踊り名を持つ名取だ。
一方、今年で5年目の伊吹香織は、ハンターカレッジで演劇を専攻する大学院生。日舞を紹介すべく、4年前に大学で開催した発表会が評判を呼び、来る3月8日には、3回目の公演を予定している。「初心者ワークショップも開催しています。私も、ニューヨークで日舞を初めて知りました。本当に奥が深くて、楽しいですよ」と顔をほころばせる。
11年前に夫を亡くし途方に暮れていた時、清水に誘われて入会した高橋三枝子は、同会で人生の危機を乗り切ったという。「子どものころに少しやった日舞を再開したら、みるみる元気になりました」。踊りで自分を取り戻した高橋は、6人の生徒を抱えるまでに上達。「悲しい時も、楽しい時も日舞です」
熱い稽古の終了後、スタジオを出る彼女たちの満足そうな笑顔が、充実した人生を物語っていた。
(文中敬称略)
宗家藤間流「市藤会」
日本クラブの講座を中心に、クラスを開講。着物や道具の貸与もあり。公演は3月8日(日)午後2時から、ハンターカレッジのLang Hall (68th St., bet. Park & Lexington Aves.)にて。入場無料。
www.ichifuji-kai.org
■問い合わせ
ichifujikai@gmail.com(伊吹まで)