沢井箏曲院
沢井箏曲院
「襟を正す」という言葉がぴったりだった。しゃきっと伸びた背筋、鋭い眼差し。彼らが三味線を手にした瞬間、和やかだった部屋の空気が変わった。
ここはニューヨークでも数少ない琴と三味線の教室「沢井箏曲院」。演奏家としてハリウッド映画にも参加した経歴を持つ石榑雅代が主宰する教室だ。「普段は個人レッスンなのですが、今日は賑やかです」と楽しげな石榑。ちょうどこの日、桜祭りでの演奏会に向け、三味線の合同練習が行われていた。馴れた手つきで調律を始めたのは、三味線暦3年のキャッツ・ダニエル。ピアノ、ギター、さらにはバイオリンまで弾きこなす多才なミュージシャンの彼だが、三味線にあっては「難しいー!」と絶叫。とはいえ最初は正座にすら苦戦した彼も、今では念願のマイ・三味線を手に入れ、演奏を楽しむ日々。「自分の音楽に三味線を取り入れて、日米音楽を融合させた曲を作るのが夢」との野望を抱いている。
三味線歴1年ながらも、鮮やかなバチさばきを見せていたのは、イワズミ・エイミー。実は彼女は世界中でリサイタルを行う実力派バイオリニスト。楽器は違えど、その音楽センスは抜群だ。日本文化が好きだという彼女は、多忙なバイオリン練習の合間にお茶や三味線をたしなむ大和なでしこだ。「バイオリンなら4000人の観客の前でもへっちゃら。でも三味線の披露は桜祭りが初めてなので、緊張に負けず頑張ります」と意気込みを語った。美しい正座姿で練習を見学していたシモン・クラウスに三味線との出会いを尋ねると、「カツシン!」と即答。なんと彼、映画「座頭市」の中で、勝新太郎が披露する三味線に魅せられ、その虜になったのだとか。「自宅でも正座を心がけているので、数時間は座っていられます」という期待の新人だ。
今回の課題曲は楽譜10枚を越す長丁場の曲だったが、4カ月の特訓の甲斐あって、息はぴったり。きりりと澄んだ音、じんわりと染み入る音。3本の絃が奏でる音色は、驚くほど表情豊かで、優しい。そして何よりも印象的なのは、演奏中のメンバーの笑顔。「堅苦しいと思われがちな古典音楽ですが、楽しんでやることが第一です」と語る石榑。その言葉どおり、教室には温かい音楽と賑やかな笑い声が絶えない。音が響き、そして心も響き合う。あでやかな三味線の音色が、音楽の醍醐味をそっと教えてくれた。
(文中敬称略)
石榑雅代主宰の琴と三味線の教室。春にはブルックリン植物園の桜祭りで三味線演奏会を予定。1レッスン42ドル50セント。平日の午前10時〜午後7時半のうち、都合の良い時間を選んで個人レッスンを受けられる。
TEL: 212-481-4886
masayo-koto@worldnet.att.net
www.letsplaykoto.com