レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 American Graffiti

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


夏休みが始まった…と書いたばかりのような気がするが、もう終わってしまう。夏休みの終わりはいつもどこか淋しい。アメリカは9月から新学期が始まるので期待と不安が入り混じって複雑な気持ちになるのだろう。

 

そんな夏の終わりの一晩の出来事を人生の岐路に出会うカリフォルニアの田舎町の若者たちの目線から描いたのが、今回の映画です。

僕は中学校時代にこの映画に夢中になり、41曲のアメリカン・オールディーズのヒットソングスが詰まったサウンドトラックのミュージックテープを繰り返し聴き続けた。サンフランシスコの妻の叔父さん夫婦は、1950〜60年代のヒットソングスの数々を日本人の僕がすらすらと歌いまくるのを聞いて手をたたいて喜んだ。

僕が中学生の頃に大人気だったのは横浜銀蝿というバンド。僕はこの横浜銀蝿が大嫌いだった。ダサかったのだ。アフロリーゼントにサングラスに革ジャンにブカブカの白のパンツ。ダサい。歌の歌詞もダサい。しかし少数派だったアメリカン系ロックンローラーの僕たちは、多数派のツッパリ系横浜銀蝿ファンからいわれのない弾圧を受けた。それでも負けずに古着屋や「クリームソーダ」に通ってオシャレにアメリカンに抵抗を続けた。

愛知県の悪名高い管理教育やくだらない大時代な校則から自由になりたくて不良になったのに、横浜銀蝿ツッパリ系の不良たちは縦社会の中で中学を卒業したばかりの暴走族の先輩の前に直立不動で一列に並ばされてヤクザや軍隊みたいなくだらない規律を押し付けられていた。

それに比べて僕たちアメリカン系ロックンローラーは自由だった。名古屋の中心街、栄(さかえ)の公共公園には日曜日になるとラジカセを中心に輪になって踊りまくるタケノコ族とロックンローラー族でびっしりとにぎわっていた。僕の甘酸っぱい思い出がいっぱいに詰まった映画です。

一晩の思い出

1962年夏の終わり、アメリカはこのすぐ後に津波のようにやってくるケネディ暗殺もベトナム戦争もヒッピームーブメントもまだ経験していない。カリフォルニア州の田舎町モデストでは大学進学のために街を離れるカートとスティーブ、一つ下のテリーとドラッグ・レーサーのジョンが今夜もたまり場のメルズ・ドライブインに集まった。

スティーブはガールフレンドのローリーを田舎街に残して東部に進学することに後ろ髪を引かれる思いだ。カートは車ですれ違っただけの謎の金髪美女に一目惚れ。今夜中に彼女にもう一度会おうと一晩中街を徘徊する。ヒキガエルという不名誉なあだ名を付けられたテリーは彼には分不相応な美少女デビーを車に乗せることに成功する。ドラッグレーサーのジョンは背伸びしたい12歳の女の子キャロルにまんまと乗せられて一晩中街を走り回らせられるハメになる。

この若者たちの一晩の出来事が別々に進行していく。今ではよく見るストーリーの進め方だが、当時は一つの映画で別々のストーリーを同時に進めていくのは画期的な展開だった。高校卒業まで育った生まれ故郷を離れなければいけない淋しさ、深い傷を背負う直前の時代のアメリカの楽観的なナイーブさとノスタルジーを、当時のヒットソングスとウルフマン・ジャックのDJをバックグラウンドにして描いている。

この映画の後、無名だったジョージ・ルーカスはスターウォーズを当てて、ロン・ハワードも大監督になり、リチャード・ドレイファスもアカデミー賞を取った。若いって素晴らしい。

 

 

 

今週の1本

American Graffiti
(邦題: アメリカン・グラフィティ)

公開: 1973年
監督: ジョージ・ルーカス
音楽: 1950〜60年代のアメリカン・ポップソングス
出演: リチャード・ドレイファス、ロン・ハワード、チャールズ・マーティン・スミス
配信: Apple iTunes、VUDU他

1962年夏の終わり、カリフォルニア州の田舎町で東部に進学するカートとスティーブは最後の一晩の思い出を作るために今夜もメルズ・ドライブインに集まった。

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。
1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapolo gizers

 

 

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