2019/05/10発行 ジャピオン1017号掲載記事

心と体のメンテナンス

日本人に多いシトリン欠損症(後編)

代謝の状態が変化 食事で症状を改善

シトリン欠損症の原因は何ですか?

シトリン欠損症は、シトリンというタンパク質を作る遺伝子に生まれつき異常があり、シトリンが正常に機能しないことにより発症する病気です。シトリンがうまく作られないと、生体内の働きである代謝に支障が生じ、身体的・精神的にさまざまな症状が現れます(表参照)。

代謝とは、体に入ってきた食べ物を分解し、生命に必要なエネルギーを作り出す一連の過程をいいます。

食事をすると、ご飯(米飯)やパンなどの炭水化物はブドウ糖に、肉や魚などのタンパク質はアミノ酸に、チーズやバターなどの脂肪は脂肪酸やグリセリンに分解され、血液によって体中に運搬されます。これらの栄養素は血液から細胞内に取り込まれ、さらにミトコンドリアという小器官に運ばれます。ミトコンドリアは、取り込んだ栄養素を完全に分解し、最終的にエネルギーの源となる物質を作り出します。この働きから、ミトコンドリアは体の「エネルギー工場」と呼ばれることがあります。

シトリンは二つのアミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)を輸送するタンパク質であり、特にミトコンドリア内膜に多く存在することから、その機能はミトコンドリアの働きに大きくかかわっています。

興味深いことに、多くのシトリン欠損症患者には、炭水化物を嫌い、タンパク質と脂質を好むなど、食事への特別な嗜好があります。これはシトリンが機能しないことによる代謝の状態の変化で、タンパク質と脂質の方が、患者にとってエネルギーを作りやすい栄養素になっているからだと考えられています。苦手な炭水化物を大量に摂取し続けると、症状悪化につながってしまいます。

他にも、肝機能低下や脂肪肝を起こしやすい、炭水化物をたくさん摂取した後に、食欲不振、腹痛、吐き気、疲れやすいといった症状がみられることがありますが、それらが起きる詳しいメカニズムはまだ解明されていません。


脳障害が起きるのはなぜですか?

シトリンが機能しないことにより、血中アンモニア濃度が高くなることと関係しています。

シトリンは、ミトコンドリア内にあるアスパラギン酸を細胞質(ミトコンドリアの外側)に送り出す働きがあります。細胞質に出されたアスパラギン酸は、体に有害なアンモニアを尿素に変え、尿中に排出する「尿素サイクル」のために必要な物質でもあります。シトリンの働きが低下すると、ミトコンドリア内から細胞質にアスパラギン酸を送り出すことができず、その結果、尿素サイクルが停止し、アンモニアが体内に溜まってしまいます。

体内のアンモニア濃度が上昇すると、脳に障害が起こり、性格の変化、異常行動などの症状が現れます。

この病気は遺伝しますか?

シトリン欠損症は、遺伝子にある変異(シトリンの機能を低下させる遺伝子の変化)が子供に引き継がれることによって起こる劣性遺伝形式を取る遺伝疾患です。

子供は、シトリン遺伝子を父親と母親から一つずつ受け継ぎます。そのうちの一つに変異があったとしても、もう片方が正常であれば発症しません。しかし、受け継いだ両方に変異があった場合には発症します。片方だけに変異をもつ人を保因者といいます。

日本人は69人に1人が保因者と推定されており、遺伝疾患としては頻度がかなり高い病気といえます。最近の研究では、実際の保因者はもっと多く存在することが予測されています。


どのように治療するのですか?

不明な点が多いため、しっかりとした治療法は確立されていません。ただ、食事バランスを考えながら、炭水化物よりもタンパク質と脂質を多めに摂取することで、悪い症状が起こりにくくなることが分かっています。食べたいものに偏りがちな食事を無理に矯正せず、患者本人が食べたいものを食べることが大切と考えられています。中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)オイルという脂肪を摂取することが、症状緩和に有効なこともあります。まれにですが、肝機能低下が重症の場合は、肝移植も検討されます。

今後この病気の研究が進むことにより、早期発見の方法や、さらに有効な治療法の開発が期待されます。

※次回からは、桑間雄一郎先生に夏の皮膚病対策についてお聞きします。

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今川英里先生
Eri Imagawa, PhD

医学博士。北海道大学医療技術短期大学部卒業後、信州大学と札幌医科大学付属病院で臨床検査技師として勤務、主に遺伝子・染色体・生化学検査に従事。横浜市立大学大学院医学研究科・博士課程修了。臨床細胞遺伝学認定士(日本)。2018年夏からマウントサイナイ・アイカーン医科大学で、博士研究員として小児の難病やシトリン欠損症の研究を行う。

Icahn School of Medicine at Mount Sinai, Dept. of Genetics and Genomic Sciences

1 Gustave L. Levy Pl.
https://icahn.mssm.edu/research/genomics

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