2019/03/15発行 ジャピオン1011号掲載記事

心と体のメンテナンス

折り紙で楽しく認知症予防(前編)

脳をマッサージして活性化 健康で幸せに暮らす一助に

アートセラピーとはどんなものですか?

感情を言葉でうまく表現できなかったり、意思表示するのが難しかったりする大人や子供を対象に、絵を描いたり物を作ったりすることで自己表現してもらい、さまざまな問題の解決を目指す心理療法の一つです。アートセラピーは、各種の精神疾患、トラウマ、アルコールや薬物依存症、発達障害などの治療や、症状緩和に幅広く利用されており、多くのケースで、医師による薬物療法、心理療法士によるカウンセリングなどと組み合わせて提供されます。

私は以前勤務していた精神科病院で、折り紙を利用するアートセラピーのワークショップを入院患者向けに行っていました。その中で、何かに集中したり、医師や看護師とコミュニケーションをとったりすることが難しかった患者が、折り紙に夢中になり、表情が生き生きとする様子をたくさん見てきました。折り紙を通じた患者とのやり取りをきっかけに、問題解決の糸口を引き出せた例も少なくありません。


折り紙で脳を「マッサージする」とは?

折り紙は、折り図の通りに折ってもいいし、自分の工夫次第でいくらでも形を変えることもできます。指を動かしながら、以前習った折り方を思い出したり、「どこをどう折れば、どんな形になるだろうか」などと考えたりする作業には、無意識のうちに集中力や創造力、表現力、問題解決能力を養い、楽しみながら脳を活性化する効果があります。

折り紙は、病気やケガの後のリハビリテーションとしても有効です。少し細かな話をすると、折り紙を折るための指の動きは、脳の中で運動機能を司る部位の約30%と、感覚機能を司る部位の約25%に関係するとされています。つまり、指を動かせば、それだけ脳の関連領域が刺激され、体の機能回復を助けるだけでなく、「脳の活性化」につながるということです。

折り紙は、紙一枚あればどこにいても、誰でも楽しむことができます。私はそういった折り紙の魅力を心理療法に生かしたいと思い、アートセラピーの一つとして「表現折り紙療法」を考案しました。


表現折り紙療法が認知症予防に有効なメカニズムは?

表現折り紙療法の柱は、①脳の活性化、②安全性・汎用性、③コミュニケーション、④創造的自己表現――の四つです。これらは、日々健康で安全、かつ心が満ち足りた状態で暮らすために必要な条件であり、脳を活性化させ、認知症の予防や、進行を遅らせるためのリハビリテーションに役立つと考えられます。

4本柱についての説明は次の通りです。
①脳の活性化=指先で紙を触ったときの感覚と、紙を折る運動が脳に刺激を与えることで、効果的な脳のマッサージや体操になります。子供のころに鶴や兜(かぶと)を折った経験がある人もいると思いますが、折り紙をするうちに記憶がよみがえり、楽しくなり、やる気や興味が生まれるという人は多いです。同時に、集中力や創造力、表現力なども養われます。
②安全性・汎用性=折り紙に使う紙は、費用をあまりかけず、身近にある包装紙やチラシなどをリサイクル感覚で使うことができます。清潔で安全な素材なので、高齢者も安心して使えます。
③コミュニケーション=折り方を教えたり教わったり、作ったものを褒め合う、達成感を分かち合うなど、折り紙によってポジティブなコミュニケーションが生まれます。コースターや箱など日常的に使える作品、飾り物など、作品から会話の話題も広がります。
④創造的自己表現=折るたびに、この世に二つとない自分だけの作品が生まれます。作品に「上手」「下手」はありません。自由な発想で、自分の気持ちを表現できます。


これから折り紙を始める人に助言を。

認知症予防のため、最近は社会福祉現場でも折り紙が活用されています。「何からどう始めればいいか分からない」という声はよく聞きますが、楽しく無理なく始めることが基本です。私の著書「脳セラピー折り紙」は、高齢者と家族、社会福祉士、介護士が一緒にできる折り紙や、手と指をリラックスさせる運動を紹介しているので、参考にしてください。

※次回は、折り紙を楽しむコツについて伺います。

折り紙は、認知症予防の一助として注目されている。世代を超えて会話も弾む
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小林利子さん
Toshiko Kobayashi, MA, ATR-BC, LCAT

米国アートセラピー学会認定アートセラピスト(ATR-BC)、ニューヨーク州免許所持クリエイティブアーツセラピスト(LCAT)。折り紙を活用する独自の心理療法「表現折り紙療法」を考案。ニューヨーク州立精神疾患センター勤務を経て独立し、現在アートセラピストとしてクライアントの心のケア、トラウマケアに従事。学会での発表や指導、折り紙を通じた国際交流活動も行う。著書「脳セラピー折り紙」(ブティック社・2019年刊)。

Expressive Origami Therapy

TEL: 646-508-1000
eorigamit@gmail.com

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