2018/10/05発行 ジャピオン987号掲載記事

心と体のメンテナンス

抗がん剤治療に伴う脱毛対策(前編)

正常細胞の損傷が原因か 脱毛を防ぐ研究に期待も

抗がん剤治療について教えてください。

がんの治療には、外科治療、放射線治療、抗がん剤治療があります。そのうち抗がん剤治療は、内服や注射、点滴などによって薬を全身に行き渡らせることにより、最初に発生した場所にとどまっているがんや、他の臓器に転移した/転移しているかもしれないがんを治療し、さらには、がんの転移と再発を抑えるために行われるものです。がんの種類、進行度、患者の年齢、状態などを考慮し、抗がん剤治療を単独で行うこともあれば、手術や放射線治療と組み合わせることもあります。


抗がん剤治療の副作用として髪の毛が抜けるのはなぜですか?

一言で抗がん剤といっても、作用の仕組みや作用する部位などによって、さまざまな種類があります。副作用として脱毛が起こりやすいのは、がん細胞の死滅を促す「化学療法(chemotherapy)」を行った場合です。がん細胞は、正常な細胞に比べて分裂が速く、体の中でどんどん増殖するという特徴があります。化学療法に用いる抗がん剤は、このように分裂の速い細胞に作用することで、がん細胞の増殖を防ぎ、最終的に死滅させます。ところがこのとき、正常な細胞の中でも分裂が速い細胞が、がん細胞と一緒に死んでしまいます。これが、化学療法で副作用が起きる仕組みです。

髪の毛を作る毛母(もうぼ)細胞は、分裂が非常に速い細胞の一つです。化学療法によって毛母細胞が損傷すると、毛根が壊死し、髪の毛が抜け落ちると考えられています。

脱毛は、毛髪以外に体毛、眉毛、陰毛でも起こります。しかし、それは一時的なものであり、化学療法が終われば毛母細胞も再生し、大抵の場合、半年~1年後には再び生えてきます。

爪、消化管の粘膜、血液細胞なども化学療法の影響を受けやすく、爪の変化(ボロボロになる)、吐き気、白血球減少(感染症にかかりやすくなる)、貧血、下痢などの症状が副作用として現れます。


脱毛は全ての人で起こりますか?

いいえ、脱毛する人もいれば、しない人もいます。脱毛に限らず、どのような副作用が、どの程度現れるかには個人差があり、使う薬の種類や用量によっても変わります。副作用の現れ方は、実際に治療を始めてみなければ分からないことがほとんどです。どの薬にも何らかの副作用はありますが、治療効果よりも体への害の方が大きい場合、薬の種類を変えるか、量を減らすなどの調整を行います。副作用を軽減するため、吐き気には制吐剤、下痢には整腸剤など、薬を処方することもあります。

参考までに、薬によって例外はありますが、副作用の現れ方と、治療効果との間に相関関係はありません。例えば、「脱毛が激しいので、それだけ薬の効果も期待できる」とか、逆に「まったく脱毛しないので、薬が全然効いていない」ということはありません。


脱毛を予防する方法はありますか?

長期的な有効性が科学的に証明された方法は、残念ながらまだありません。ただ、近年はがんの治療法が進化し、治癒する/寛解に至る(がんが縮小または消滅した状態)、あるいは患者の余命が延びて、長期的に治療に取り組むケースが増えています。そのため、今後は患者の気持ちや生活の質を重視し、脱毛予防の研究も活発になると期待されます。昨年から今春にかけて、「ロゲイン」の発毛成分であるミノキシジルや、抗がん剤投与時に頭皮を冷やす「頭皮冷却法」の脱毛予防効果を示す研究結果が発表されました。過去にはその逆の結果も報告されており、予防効果を証明するためには一層のデータの蓄積が必要ですが、こういった脱毛に関する研究報告は、これからますます増えることでしょう。


これから治療を始める人にアドバイスを。

日本でがん治療に携わった経験から、普段から楽しく暮らし、食事や睡眠にも留意することは、治療を成功させるコツの一つであることを実感しました。

脱毛は深刻な問題ですが、周囲の助けやカウンセリングを利用して上手に対処し、治療に前向きに取り組んでいただきたいと思います。※来週は、脱毛後のカツラの利用など、治療中にできるおしゃれについてです。

化学療法に伴う脱毛は、特に女性にとって深刻な問題。SHAREの勉強会では、美容師のハーティーしのさんがカツラの使い方を説明した
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SHARE日本語プログラム

アメリカの乳がん・卵巣がん患者支援団体(1978年設立)。2013年日本語プログラム(ブロディー愛子代表)発足。(左から日本語プログラム・ボランティアの)ファッション工科大学経済学准教授・経済学博士・帽子デザイナーのキャッツ洋子さん、美容室「サロン・ウエイブ」美容師のハーティーしのさん、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター博士研究員の田中広祐(こうすけ)医師(日本がん薬物療法専門医)。

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