2018/07/27発行 ジャピオン977号掲載記事

心と体のメンテナンス

コレステロール管理と健康(後編)

コレステロールを適正管理 生活改善し健康寿命を延長

脂質異常症を指摘されたら?

 脂質異常症とは、LDL(俗に言う悪玉)コレステロールが高い、あるいはHDL(善玉)コレステロールが低いなど、脂質バランスが崩れた状態です(前編参照)。異常を指摘されたら、治療が必要か、必要な場合どのような方法が適切かについて、まずは医師に相談してください。

 私が日本で診療していたときは、甲状腺機能低下症など、ほかの病気が原因で脂質異常が起きていないか、または家族性高コレステロール血症という遺伝性疾患が隠れていないかを、まずは評価していました。背景に病気がなく、治療が必要な脂質異常症であることを確認したら、治療目標と方法を検討します。

 コレステロールや中性脂肪を適切に保つ一番の目的は、血管が詰まる病気、特に冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)を予防することです。したがって、治療の目標値は、冠動脈疾患にどれだけかかりやすい状態にあるかによって変わります。例えば、糖尿病・慢性腎臓病・脳梗塞・末梢動脈疾患にかかっている人は発症リスクが高いので、予防のため、LDLコレステロールをより厳しく管理することが有効です。ほかにも冠動脈疾患の危険因子として、喫煙、高血圧、HDLコレステロール値が低い、家族に若くして冠動脈疾患にかかった人(男性55歳未満、女性65歳未満)がいる、などが分かっています。

 医師はこうしたさまざまな要因を加味した上で、食事や運動療法から始めるか、あるいはそれらと並行し、すぐにでも薬物療法を始めた方がいいかを判断します。なお、日本動脈硬化学会は個人の冠動脈疾患発症リスクを予測するツールを提供しているので、参考にしてください(表★のリンク参照)。

食事療法について教えてください。

現在は、食事から摂取するコレステロールの量とLDLコレステロール値は相関性が低く、食事の量を制限することではLDLコレステロール値があまり下がらないことが分かっています(※1)。一方で、摂取する脂の質、特に飽和脂肪酸と呼ばれる脂の摂取量を減らし、代わりに不飽和脂肪酸と呼ばれる脂の摂取量を増やすことで、LDLコレステロール値が下がることが分かってきました(※2)(表参照)。

 例えば、卵はコレステロールが豊富ですが、多くの研究から、摂取を減らしてもLDLコレステロール値はあまり下がらないことが示されています(※3)。ただし、卵を1日1個以上食べる人は、それ以下の人よりも2型糖尿病になりやすいというデータもあるので、健康のため、食べ過ぎには注意が必要です(※4)。

 飽和脂肪酸を少なめに、不飽和脂肪酸を多めに摂取する、いわゆる「地中海食」は、心筋梗塞や脳梗塞による死亡を防ぐ効果があることが示されています(※5)。皆さんの目標は、LDLコレステロールなどの数値をよくすることではなく、健康に長く生きることだと思います。そうした点でも、脂の質に着目した食事療法は有効です。

運動療法の効果はどんなものですか?

LDLコレステロールや中性脂肪に対する効果は明らかではありませんが、HDLコレステロール、いわゆる善玉コレステロールを増やす効果があるとされています(※6)。目安として、1回30分の運動を週3回行うことが推奨されています。

 また、ジョギングやジムでの運動もいいのですが、買い物、通勤、掃除・洗濯など、私たちは普段の生活でかなりのエネルギーを使っています。机仕事の合間に短時間でいいので歩くなど、立っている時間を意識して増やしてみましょう。健康のためには、実はこうした小さな運動の積み重ねが大切です(※7)。

治療薬「スタチン」とは?

食事や運動療法の効果があまりない、あるいは冠動脈疾患の発症リスクが高いなどの場合は、薬物療法を検討します。スタチンは、数ある薬の中でも古くから使われ、冠動脈疾患による死亡率を低下させる効果が多くの研究で示されています。必要な人は、可能な限り早く服用することで、一層高い予防効果を期待できます。スタチンの使用は極めて重要な判断ですので、医師としっかり相談し、治療の機会を逸しないようにしてください。

※来週は、子育てのスキルについて金澤瑞穂さんにお聞きします。

★個人の冠動脈疾患発症リスク予測ツール (日本動脈硬化学会) www.j-athero.org/general/ge_tool.html 〈出典文献〉※1=J Clin Epidemiol. 1996;49:657-663、※2=The Cochrane database of systematic reviews. 2015: CD011737、※3=Nutrients. 2017;9:934、※4=Am J Clin Nutr. 2013;98:146-159、※5=N Engl J Med 2018;378: e34、※6=Arch Intern Med. 2007;167:999-1008、※7= Science. 2005;307(5709):584-6、※8=Lancet. 1994;344: 1383-1389; Lancet. 2006;368:1155-1163; Lancet. 2016; 388:2532-2561
Takumi-Kitamoto

北本匠先生
Takumi Kitamoto, MD, PhD

コロンビア大学メディカルセンターのポスドク研究員。糖尿病・高血圧・脂質異常症などの代謝疾患と、内分泌疾患専門の内科医師(日本の資格)。千葉大学医学部卒業後、佐久総合病院研修医、横浜労災病院専修医などを経て、千葉大学大学院医学研究院に進学。日本学術振興会海外特別研究員として2017年4月に来米し、糖尿病に関する研究を行う。「さくらラジオ(www.sakuraradio.com)」の医療番組でコレステロールについて解説。

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